安倍元首相、「戦後を清算」して、改憲ポーズ アベ友TVで政権指南

まるで三国志でお馴染みの傀儡皇帝を操る丞相董卓か曹操気取りである。安倍元首相は12月13日夜、日本テレビの特番「安倍元首相直撃!日米同盟の未来、日本の役割、国内政治 【深層NEWS】」に出演して「戦後日本を清算」してみせた。そしてまたしても出来もしない憲法改正を唱え、岸田文雄政権を指南した。A級戦犯として逮捕された日テレの創業者正力松太郎が米CIAエーゼントとして日本の戦後政治に深く関わったことは周知のとおり。アベ友メディアの柱である同局がこのような1時間に及ぶ安倍特別番組を放送する狙いは見え透いている。

■日米和解:広島真珠湾での演出

12月8日の真珠湾攻撃80周年に言及し今日の日米同盟は「希望の同盟」であると改めて強調。その根拠として2016年に日米首脳がそれぞれ広島と真珠湾を慰霊訪問し=写真=、寛容の心で和解しあったことを挙げた。続いて2015年の戦後70年首相談話を振り返り、「日本にだけ焦点を当てるのではなく、15世紀以来の(欧米諸国の)植民地主義を徹底検証し、(敗戦国日本と欧米を中心とした戦勝国側との)相互作用として先の大戦を見るべき」とした。このうえで、「植民地としたアジアを収奪し尽くした欧米列強への対抗パワーとして近代日本(大日本帝国)を位置付けるべき」と示唆。さらには、「子や孫、その先の世代に謝罪を続ける宿命を負わせてはならない」との持論を繰り返し、アジアへの謝罪外交打ち切りを改めて明言した。

要するに、「安倍政権の尽力により、戦後は清算されて今や日米は価値観を共有する対等のパートナーとなった。日本の中国への謝罪も終わった」が故に、「日米両国は現行秩序を変更する覇権主義の中国を封じ込め、必ずや共産党体制を解体する」と宣言したとみるべきだ。これはワシントンの意思の代弁であり、「この路線を踏み外せば岸田政権の明日はない」との威嚇であった。

 

 

 

喫緊の課題:右翼・復古主義者の懐柔

またこの番組は反米へと向いかねない右翼勢力の懐柔も盛り込まれていた。番組は安倍政権の一番の成果として集団的自衛権の発動を可能にした新安保法制が挙げられて、終了と向かった。だが、その直前に「今後一番成し遂げたいことは何か」との司会者の問いに「憲法改正だ」と答えた。自民党が改憲を正面から掲げ続ける限り、親米から反米へと傾きかねない超国家主義勢力を繋ぎとめられると読んでいる。

さらに安倍は「野党、特に立憲民主党は安倍政権が続く限り改憲論議には乗らないと言ってきた。比較的リベラルな岸田政権だからこそ改憲の可能性は高まったのかなと考えている」と結んだ。この発言は護憲・軽武装・経済優先を戦後保守政治の原点とする宏池会・岸田派への揺さぶりである。「嘘でいいから改憲ポーズは崩すな」と岸田首相に指示したことになる。本音ではワシントンに禁じられた改憲が可能とはまったく思っていないはずだ。注1

注1:2020年2月15日掲載記事「私の手で改憲成し遂げる」は安倍首相最大の虚言--どう我々を欺いているのか」を参照されたい

右翼の反発:「米国も臭いトイレ」

安倍が率いることになった自民党最大派閥「清和会」の源流の1つが祖父岸信介が率いた「自主憲法期成議員同盟」であり、それは右からの対米自立を胸に秘めた戦前日本への回帰を望む復古主義者や超国家主義者によって脇を固められていた。彼らは米諜報機関を通じてのワシントンからの秘密資金で懐柔され、日本の左翼勢力潰しに助力してきた。安倍の支持母体である日本会議を取り巻く諸勢力も同様に米国に丸め込まれてしまった。注2

しかし、「失われた30年」といわれる日本経済の衰退と国民の相対的貧困化はワシントンの日本弱体化戦略の結果である。それは右翼勢力も重々承知している。「桜チャンネル」などの番組を通じて彼らからかなり前から「中国も米国もともに『汚いトイレ』」との言葉が漏れてきている。

安倍は先の自民党総裁選で擁立した高市早苗=写真=が期待以上に善戦したのを評価して、「確固たる国家観を示した。私たちの論戦によって、はがれかかっていた多くの支持者が自民党に戻ってきてくれたのではないか」と安どの声を上げた。改憲を明言するだけでなく、高市のように「首相に就任すればすぐさま靖国神社に参拝する」と語る”後継者選び”が必須となっていたのだ。

 

注2:2021年2月18日掲載記事「保守「主流」逆転と米国の圧力 反共強国と清和会支配1」「同2」を参照されたい

■安倍とワシントンの対日世論工作

安倍晋三は懲りなく米英の代理人を買って出ている。

2021年12月1日、台湾のシンクタンクが主催するフォーラムでオンライン講演を行い、中国が台湾に武力攻撃すれば日米同盟の有事になると述べた。「中国の台湾への武力侵攻は日本に対する重大な危機を引き起こす」「日本の有事となり、日米同盟の有事でもある」としたうえで、「この点の認識を北京の人々、とりわけ習近平主席は断じて見誤るべきではない」、「台湾が強く、繁栄し、自由と人権を保障するなら、日本だけでなく世界全体の利益になる」とあからさまに中国を恫喝した。

米国のASEAN抱き込みに一役買おうとしたのも安倍だった。反米に傾いた非同盟運動のリーダーだったマレーシアのマハティール元首相が「日本に学べ」とルックイースト政策を提唱して2022年は40周年となる。そこで安倍は自ら岸田首相に売り込み、12月3日にマレーシア特使として現地に赴く予定とされた。ところがブリンケン米国務長官が英リバプールでのG7外相会合後の12月13日からインドネシア、マレーシア、タイを歴訪することになり、安倍はお役御免となった。

岸田首相は12月2日、マレーシアのイスマイルサブリ首相と約半時間電話協議を行った。ASEANは中国牽制色を帯びたインド太平洋ではないとする独自の「インド太平洋」構想を打ち出し、日米英豪の「自由で開かれたインド太平洋」と一線を画している。マレーシア側はこれを首脳会談で日本側に改めて伝えたようだ

いずれにせよ首相在任中ことあるごとに「100%米国とともにある」と公言して高額兵器を爆買いした安倍を忠良な代理人とするワシントンの対日世論工作は続く。岸田・宏池会グループはこれにどこまで耐えられるであろうか。