称えて従属させるソフトパワー外交  安倍政権支えた米国 

「飴と鞭」では古めかしい。前者をソフト・パワーと言い換えれば極めて耳ざわりが良い。ソフト・パワーによる政策推進の提唱者はクリントン政権で国家情報会議議長や国防次官補を務めたジョセフ・ナイ・ハーバード大特別功労教授である。日本政府に決定的な影響力を与える対日政策提言書である国際戦略問題研究所(CSIS)刊行の「アーミテージ・ナイ報告書」の代表執筆者の一人である。その政策は「称えて従属させる」と言い換え可能だ。

歴代最長政権を率いた安倍首相が28日に辞意を表明した。何故アメリカはここまで安倍政権の長期化に執着したのか。これを知るにはCSIS幹部の発言に耳を傾けるのが手っ取り早い。実際は全面容認した集団的自衛権行使容認とこれに基づく新安保法制の施行を忠実に解釈改憲で成し遂げた安倍政権。それ以降、靖国神社参拝を取りやめたことを評価して当時のオバマ政権はこの極右政権に対し鞭を飴に取り換えた。

2019年9月の二階自民党幹事長の「安倍さんの次は安倍さん」発言を受けるかのように1カ月余り後に来日したのはニコラス・セーチェーニCSIS日本副部長・上級研究員だった。

日本の有力経済紙のインタビューに応じ、「第2次安倍政権により日本の指導的役割が世界に再認識された」と持ち上げた。

「第2次安倍政権発足からの約7年は世界で米国の指導力に疑問符がついた時期と重なる。北朝鮮や中国、ロシアが問題をおこし、欧州も分裂の兆しをみせる不安定な国際環境が続いた。そのなかで安倍晋三首相が日本に政治の安定をもたらし、世界に日本の指導的役割と、日本が多くの課題にともに取り組めるパートナーだと認識させたことが政権の最大の成果だ。」「各国の日本への認識を変えたこと自体、政権のレガシーになる。」(太字強調は筆者)

この人物はジャパンハンドラーとして名高いマイケル・グリーン米国家安全保障会議(NSC)元アジア上級部長のCSISでの直属の部下。それにしても歯の浮くようなお世辞を並べたものだ。安倍政権は2012年に公表された第3次アーミテージ・ナイ報告書で提示された要望事項にことごとく忠実に従った。それが上記の賛辞を引き出したようだ。

ただし、太字強調した「世界に日本の指導的役割と、日本が多くの課題にともに取り組めるパートナーだと認識させたことが政権の最大の成果だ。」のうち「日本の指導的役割」を削除し、「世界に」を「米国に」に取り換えればワシントンの本音となる。すなわち、「米国に対して、日本が多くの課題にともに取り組めるパートナーだと認識させたことが安倍政権の最大の成果である」。言葉を換えれば、安倍政権は「忠実な従属国家を率いている」と米国を十二分に満足させていたということであろう。

日本のあるシンクタンクで開催された中国台頭を巡る討論会に出席したセーチェーニ氏は日本政府の対中政策に関し次のように語った。

「中国の台頭について、日本はそのリスクとオポチュニティの両面を正確に認識しつつ、対中戦略において重要な役割を果たしている。今後、東アジアの地域協力の調整役を担えるのは日本だけだ。」(同上)

ソフトパワーはハードパワーと併せてスマートパワーと呼ばれる。メディアを介して日本を「称賛し」、自尊心をくすぐられた日本の人々をより現政権支持、対米依存へと導く米国のしたたかさが改めて示されている。