安倍後継、ヤーヌスの顔継承へ 媒体は日本会議 -更新-

在任期間が憲政史上最長という記録を残して安倍首相が退陣する。誰が後継しようと、新型コロナ対処、経済対策、少子高齢・社会福祉政策をはじめ内政課題への対処では大同小異であろう。国際社会という名のワシントンは「安倍的な政権」を強く欲している。言うまでもなく本格冷戦に入った米中対決に際会し、継続性が不可欠だからだ。

日本の統治者は誰か

戦前体制を是認する右翼団体や神社・神道組織が安倍政権の力の源であった。その最大の後ろ盾が中国に対する敵意と憎悪を煽り立て、日本の非リベラル化を促してきた極右組織・日本会議だ。一方、安倍首相は国際社会(西側諸国)に対しては「自由と人権、民主主義と法の支配」という普遍的な価値の共有を誓った。しかも「100%米国とともにある」とまで言い切った。まさに前代未聞の不世出の宰相だった。

各種世論調査でトップを走る石破茂は香港問題などでは当たり障りのない中国批判を行っているが、日中国交回復を成し遂げた田中角栄元首相を師と仰ぎ、安倍グループなど主流の対中強硬派からは天敵扱いされている。ワシントンの評価は安倍氏に比べると格段に低いように思われる。

来年9月までのワンポイントリリーフとして菅官房長官が後継しそうだが、その後は見通せない。石破の芽はほとんどなく、岸田、河野に「安倍的な日本会議との.一体感」は感じられない。女性の野田、稲田ではなおさらである。

後継者は誰であれ、基本的には安倍氏を担いだ御輿の上に座ることになる。

再登板から間もなくの2013年初めに安倍首相は訪米した。当時のオバマ大統領から徹底的に冷遇された後、そそくさとホワイトハウスを立ち去り駆け込んだ先が第二次安倍政権の揺籃の地であった。日本をハンドルする超党派の米シンクタンク国際戦略問題研究所(CSIC)がそれだ。CSICでの演説の冒頭、安倍氏が口にしたのは「戻ってきました(I'm back.)」。この一言こそ、誰が、どんな集団が日本の統治機構を取り仕切っているかを白日の下にさらした。

これが安倍氏の最大の功績といえまいか。

■日本会議:日米の媒体か

日本の政治は内向きと外向きではまったく違う双面神ヤーヌスのような顔を見せている。この「ねじれ現象」はなぜ起こったのか。ワシントンは日本の国内世論が決定的に反中に進むことを望みながらも、一方で日本が敗戦を率直に認めようとしない歴史修正主義にみられる過剰な反米的なナショナリズムへと決して向かわないようその首に「頸木」を掛けている。裏でワシントンと繋がると疑われる日本会議は実は「ねじれ」の結節点にあり、日米の仲介役を果たしているようだ。

 

因みに、日本会議と一体のオピニオン機関「日本基本問題研究所」。日本会議幹部である論客たちが「安倍晋三首相の退陣と近づく米大統領選挙という日米二つの政治空白は、拡張主義の中国にとって領土的野心への誘惑になりかねない。」、「(東西冷戦終焉を受け)共産主義国家中国を国際経済システムに取り込んで民主化する必要があると説いたのは、ベーカー国務長官だった。ポンペオ演説はこれに終止符を打つとの宣言だ。代わりに民主主義国家による新たな同盟が必要だとポンペオ長官は提案した。」とこぞって中国脅威と米国の対中冷戦宣言の代弁を行っている。

ワシントンは安倍首相に米連邦議会や北大西洋条約機構(NATO)本部をはじめさまざまな国際舞台で演説させて「自由主義諸国との同盟」を誓約させた。その目的は日本の政治にバランスを確保するためだ。例えば、安倍首相が「外交の安倍」「地球儀俯瞰外交」を標榜しながら、米国主導の米欧諸国の軍事同盟であるNATOに事実上加盟し戦勝国グループにもろ手を挙げて同調しても安倍政権を支える右翼団体や神道組織からは批判の声は一切出なかった。政権寄りメディアは日本を「世界の中心で輝かせている」と称えた。

日本会議が日米の媒体として大きな役割を果たしているからではないか。傍証は多々あるが、それは稿を改めて論じる。

■対中融和を「正す」

しかし、安倍政権は延期されている習近平総書記の国賓招待にみられるような対中融和の動きも見せた。経済界への妥協であった。新政権はこれを「正さねばならない」。つまり、習近平招聘中止が求められているのだ。

「米国マル秘論文の衝撃 『中国が沖縄爆撃。尖閣奪う』迎え撃つ安倍の遺憾砲!」

連日、日本のニュースサイトにはこれでもかと中国脅威を煽る記事がてんこ盛り状態だ。826日にはついに「中国の沖縄爆撃」までが登場した。この記事が引用している米国の「マル秘」論文の執筆者は名うての中国脅威を扇動するリサーチャー。一部を引用する。

「中国海軍は艦隊の規模や火力等の戦力で海上自衛隊を追い抜き、それは次の危機における抑止の失敗の確率を高める可能性がある。日本と中国の海軍力の不均衡は日米同盟を緊張させ、アジアが不安定化する。日米両国は迅速にバランスを取り戻さなければならない」。「さもなければ沖縄・那覇空港がミサイル攻撃され、尖閣が奪われる」。

要するに中国に対抗するため日本はできるだけ多くの米国製の最新鋭兵器を言い値で買えということなのだ。同時に記事は中国ビジネスの促進で活路を見出したがっている日本の経済界を断念させ中国から撤収するよう導けと迫っているのだ。言うまでもなく、次期首相には日米安保基軸路線の徹底と一層の対中強硬策の推進が求められる。

■日本の司令塔

戦争の逼迫感は関係国の人々に最大の恐怖を与える。米国の同盟国が軍備を最大限に拡大すれば米軍需産業はこの上なく潤う。現在進行中の台湾海峡、南シナ海の緊張は今後さらに高まるだろう。

例えば、衰退する米国にとって、台湾を支援し、中国の武力行使を抑止する最善の方法は、台湾だけでなく、アジア太平洋地域のすべての友好国が自衛能力を強化することだ。そのためには「100%米国とともにある」安倍路線の踏襲が強要されよう。

日本の政局、とりわけ総理総裁人事に多大な影響力を持っているのもワシントンだ。これを無視した「永田町内の駆け引き話」に終始すればほとんど真相はえぐれない。民主党政権時代、鳩山元首相の側近だった元衆院議員は「重要な指令はすべて在日米国大使館から出る。日本の司令塔はここだ」と明かした。

写真は在日米国大使館。永田町・国会議事堂、霞ヶ関という「日本の中枢」をにらむ三角形の頂点に立地している。

この1年間に「安倍さんの次は安倍さん」(二階幹事長)、「改憲を目指すには総裁4選が要る」(麻生副総裁)、「世界が安倍退陣を許さない」(世耕参院幹事長)と3回も自民党の要人から「余人をもって代え難し」との安倍続投要請が公にされた。指令は在日米国大使館経由ワシントンからもたらされたはず。

安倍氏は辞めるに辞められないとの思いを募らせていたはずだ。