米ネオコンが安倍に激怒した理由 元首相暗殺事件再考1

本ブログは直近の2つの論考「安倍晋三去りて1年:お役御免の旧安倍・保守勢力、米国へむき出しの攻撃開始 差替版 | Press Activity 1995~ Yasuo Kaji(加治康男) (yasuoy.com)」「米権力中枢は"暴走"する安倍を処分した? 首相辞任後、噴き出た靖国尊崇とプーチン擁護 | Press Activity 1995~ Yasuo Kaji(加治康男) (yasuoy.com)」で安倍暗殺に米国が組織的に関与した可能性は否定できないとの疑念を示唆した。言葉を換えれば、安倍を抹殺するに十分な政治的理由がみえてきたということだ。岸田派「宏池会」所属議員は安倍が2022年2月27日に民放テレビ番組でプーチン・ロシアのウクライナ侵攻を一定理解するかのような発言をしたことに「G7サミット議長となる岸田総理の背中に弓を引く言動」と激怒したという。これ以上にネオコンを先頭にワシントンは怒り狂ったことだろう。

東西冷戦期の対ソ連封じ込めから、現在の対中国包囲網形成まで日本は地政学的なユーラシア封じ込めの最前線として米国に利用されてきた。ただし、在日米軍には二面性があった。平和憲法の定める戦力放棄によって軍事的空白地帯となった日本を防衛するとともに、日米安保条約と在日米軍は日本の軍国主義侵略政策の再現を防ぐ役割を持っていた。いわゆる二重封じ込め策である。これまで幾度もアメリカ側の責任者から証言されてきたことだ。その封じ込められている日本の代表的人物が戦犯容疑者岸信介の孫安倍晋三であった。

注:保守「主流」逆転と米国の圧力 反共強国と清和会支配1  | Press Activity 1995~ Yasuo Kaji(加治康男) (yasuoy.com)

ブルース・カミングスは、第2次大戦後のアメリカ基本戦力について、有名なジョージ・ケナンの提唱したアメリカの「封じ込め政策」を次のように解説している。

「敵対する共産主義国ばかりでなく、資本主義の同盟国もその対象だった。ケナン・ドクトリンは二つの顔をもつヤヌスのようなもので、一つの顔はソ連とその同盟国の封じ込めに、もう一つの秘密の顔は敗戦国、つまりドイツと日本の封じ込めに向けられていた。」

ニクソン政権の大統領補佐官だったヘンリー・キッシンジャーは、1971年10月に行われた中国での秘密会談のなかで、周恩来首相から、「アメリカは1968年ソ連がチョコスロバキアに軍隊を派遣したのを認めなかった。それなのになぜ、米軍を日本に駐留させるのか」と疑問を投げかけられた。

周恩来に対してキッシンジャーはこう答えた。「もしわれわれが日本から撤退するとなると、原子力の平和利用計画によって日本は十分なプルトニウムを保有しているから、われわれの撤退にとってかわるのは、決して望ましくない日本の核計画である。われわれはそれに反対なのだ。」

「日本が大規模な再軍備に乗り出せば、中国とアメリカの伝統的な関係[第二次大戦時の同盟関係]が復活するでだろう(略)。ようするに、われわれは日本の軍備を日本の主要四島防衛に押しとどめることに最善をつくすつもりだ。しかし、もしそれに失敗すれば、他の国とともに日本の力の膨張を阻止するだろう。」

別稿で詳しく触れるが、現憲法下で集団的自衛権行使容認を実現できる政治家として安倍に白羽の矢が立った。2003年のイラク戦争勃発前までに米ネオコンは「米国の管理下で日本の軍備を大増強する」計画を立て、小泉政権に続く清和会の安倍政権を発足させた。ワシントンは安倍極右政権を戦後日本の防衛政策の大転換に向かわせ、日本を北大西洋条約機構(NATO)の環に組み込む。米軍の指揮下に自衛隊を組み込める集団的自衛権行使容認に伴う新安保法制は2015年に実現する。

安倍に集団的自衛権行使の必要性を教え込んだ一人が外務官僚・岡崎久彦である。後に対日司令塔と称されることになる米シンクタンク国際戦略問題研究所(CSIS)にも在籍した岡崎は岸ー安倍ラインが米国の敗戦国日本封じ込めの最前線に立たされている微妙な立場にあることを十分承知していた。岡崎は口癖のように「アングロサクソン(米英)には決して逆らってはならない」と安倍を諭してきたという。

岡崎は2012年9月に行われた自由民主党総裁選挙の際は、「安倍晋三総理大臣を求める民間人有志の会」発起人に名を連ねた。安倍第二次政権の下、翌2015年の平和安全法制整備法案(新安保法制)成立へとつながった、2014年の集団的自衛権行使容認閣議決定を見届けて岡崎は病死した。岡崎亡き後、プーチンに接近する安倍を諫める人物はいなくなったようだ。

(続く)