首都東京の防空拠点である航空自衛隊入間基地(埼玉県狭山市)は南西約10キロに隣接する米軍横田基地内に設けられている自衛隊航空総隊司令部の隷下にある。入間基地には、弾道ミサイル対処に当たるPAC3や海上自衛隊イージス艦とネットワークを介して連接する指揮統制の中核システム・自動警戒管制システム(JADGE)が設けられている。米軍が自衛隊基地内の防空指令所(DC)に通信機器を設置して、日米一体でJADGEを運用している空自基地は入間基地だけである。加えて北大西洋条約機構(NATO)軍が基地共用へと向いかねない状況にある。ロシアが中国や北朝鮮と軍事協力を強化する中、首都圏に日米NATO共同で反撃態勢を敷けば、中露北朝鮮は「反撃態勢強化は即攻撃態勢強化」と警戒するのは必至。台湾有事を口実にした南西諸島での中国に向けた敵基地攻撃態勢整備と併せ、日本は自滅的な危機を招きつつある。
■空自最大基地にNATO事務総長訪問
第二次安倍政権が集団的自衛権行使を閣議決定で容認、翌2015年に新安保法制が制定されて、国内外問わず自衛隊は米軍と基地を共用できるようになった。これに先立ち航空自衛隊のミサイル迎撃・高射部隊を中核とする防空戦闘部隊を一元的に指揮・統括する航空総隊司令部は2012年に府中基地から米軍横田基地の在日米軍司令部に併設する形で移転されていた。米軍は日本政府の集団的自衛権行使容認を待ち受ける形で、航空自衛隊を日米連携強化の名の下、米軍の実質指揮下に置いた。同時に、南東北、関東、中部、近畿地域を防空任務とする中部航空方面隊司令部の置かれる空自入間基地を米軍横田基地内の在日米軍司令部(第5空軍司令部)や自衛隊航空総隊司令部と統合するため、米軍は入間基地内に「横田基地支所」を設けた。
2023年1月31日。空自最大規模の入間基地の名が世界に報じられた。NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長(元ノルウェー首相)が同基地を訪問しためだ=左写真、背後はC-2輸送機=。NATO事務総長は、基地現地で航空自衛隊トップの航空幕僚長、 入間基地を本拠とする中部航空方面隊司令官らに、東京に戻っては官邸で岸田首相に対して日本とNATOとの安全保障面での連携強化を訴えた。日本側はNATOのインド太平洋地域における安全保障への関与を歓迎したと報じられた。この訪問は、上記の横田基地と入間基地との司令機能一体化がNATO軍のためのものであり、入間基地が米軍横田基地と並び、NATO軍の中枢である米英両軍の日本における司令拠点となることを示唆していた。
2007年1月12日。安倍晋三首相(当時)は日本の首相として初めてベルギー・ブリュッセルの北大西洋条約機構(NATO)本部を訪問。「自由と民主主義という価値観を共有するグローバルパートナーとしてNATOと連携を強化する」と演説した。これを端緒として日本は日豪、日印と安保共同宣言を締結、インド太平洋構想の提唱、クワッド(日米豪印戦略対話)へと展開した米国の世界戦略のコマとして公然と動いていった。
本ブログは2020年11月掲載記事「「日本の右翼政権に軛かける」 新日英同盟と拡大NATO | Press Activity 1995~ Yasuo Kaji(加治康男) (yasuoy.com)」を皮切りに、安倍首相の2007年NATO本部訪問から2018年に在ベルギー日本大使館にNATO日本政府代表部を設けて事実上NATO加盟するまでの日本政府の動きを論評してきた。ストルテンベルグ事務総長の入間基地訪問は大きな節目となった。これに続き、5月のG7広島サミット前にはNATO東京連絡事務所開設の動きが報じられた。フランスの反対で事務所開設は凍結された形だが、ストルテンベルグが1月に入間基地で強調したNATOと日本との連携強化の内実が具体的に示された。
ソ連圏に対する集団防衛機構として1949年に設立されたNATOは現在、ロシアとの代理戦争の場となったウクライナとジョージアにも連絡事務所を置いている。日本に事務所が開設されればアジア初。韓国、台湾、オーストラリアなどと連携して中国、ロシアを牽制する拠点となる。日韓両首脳は2022年6月、スペイン・マドリードで開かれたNATO首脳会議にそれぞれ初めて出席、ユーラシア大陸の東側から中国、ロシア、北朝鮮封じ込めのためNATOと全面協力すると誓っていた。入間基地が日本におけるその最前線となった。実際、2023年8月末に着任した中部航空方面隊(入間基地)新司令官はHPで「我が国周辺で活発に活動する中国機やロシア機に対し、昼夜を問わず、常続不断の警戒監視に万全を期し、緊急発進による対応、北朝鮮による度重なるミサイル発射に対応」と中国、ロシア、北朝鮮を敵と名指ししている。
【写真】航空自衛隊入間基地に所属する第1高射群隊のPAC3(パトリオットミサイルMIM-104 Patriot)
■大増強される首都防空拠点
これに伴い、入間基地の大増強が行われている。埼玉県議基地調査団によると、2022年度の予算額60億円は23年度には210億円に激増した。航空基地が、敵の攻撃に耐えてその機能を維持する能力、具体的には司令部や通信施設、電柱の地中化、通信や管路の二重化を図る基地強靭性強化事業に115億円が充てられている。急速な地下化・強靭化は「戦争に備えた基地に転換されている」ことを如実に示している。ストルテンベルグ事務総長がウクライナへの物資輸送に貢献したと称えた長距離用大型輸送機C-2を防衛省は2機597億円で購入し入間基地に格納庫などを整備した。入間基地からハワイ、オーストラリア、インドなどへ飛行するC-2には 敵のミサイル拠点などをたたく反撃能力(敵基地攻撃能力)として使用するスタンドオフミサイルの搭載が検討されている。
さらに海外での戦闘で重篤に傷ついた自衛隊員を手当てする「後方支援・後送病院」である自衛隊入間病院が2022年に完成。これはCー2輸送機の配備と表裏一体の関係にある。C-2には、「空飛ぶ手術室」と言われるコンテナ「機動衛生ユニット」が3つ積み込め、南西諸島や海外で負傷した自衛隊員の救命措置、救急手当を行い、入間基地に到着すれば直ちに新設の自衛隊病院に搬送されるシステムとなっている。まだ海外で負傷した自衛隊員はいないので、この新設された自衛隊病院にはいまのところ患者はおらず、がらんどうとなっている。C-2の複数駐機と自衛隊病院の新設は入間基地が有事態勢に組み込まれているのをはっきりと物語っている。
このほか、「いざ」というときの自衛隊員や車両、装備、物資の出動拠点を意味する災害対処拠点としての拡充、電子戦部隊の強化、航空医学実験隊の集約化など入間基地の拡大強化を示す事例は枚挙にいとまがない。この一連の動きが自衛隊とNATOとの連携強化、海外での戦争の拠点づくりと無縁であると断言できるものはいないであろう。
■最初に標的となる横田・入間
2023年2月6日。浜田防衛相(当時)は、敵基地攻撃能力の保有について、相手国の報復攻撃で「日本に大規模な被害が生じる可能性も完全に否定できない」と答弁した。万が一、中国、ロシア、北朝鮮と有事になれば、最初に標的となり集中攻撃されるのは日米NATO共同の司令中枢の置かれる横田基地と入間基地である。必ずしも南西諸島ではない。とりわけ、航空自衛隊入間基地は日本最大の迎撃ミサイル配置拠点であり、横田、横須賀、厚木など首都圏にある米軍を防衛する長距離巡航ミサイルが配置されていることから司令機能破壊を目的に真っ先に攻撃されるのは必至。
この理不尽さについては2023年1月掲載記事「「日本人よ今度は米国のために死ね」と米対日司令塔 いつ日本人は安保破棄へと動くのか | Press Activity 1995~ Yasuo Kaji(加治康男) (yasuoy.com)」に記した。対日司令塔と呼ばれる米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)は岸田首相訪米直前の2023年1月9日に中国軍の台湾侵攻に絡み「在日米軍基地や自衛隊が標的となり多大な損害が出る」との机上演習結果を公表した。「自衛隊の全戦力が中国ミサイルの射程に入るため、数千人の隊員が命を落とす」と公然と言い放っている。当然、首都圏でも米軍・自衛隊基地周辺住民にも多大な被害が出る。米ランド研究所も2022年に「中国は日本軍に対する大掛かりな攻撃を検討し、戦域における米国の最も有能な同盟国日本が機能不全となる可能性がある」とレポートした。
最近掲載した「「米国に台湾とともに戦う覚悟はない」 麻生暴言の裏で進む米軍の西太平洋からの撤収 | Press Activity 1995~ Yasuo Kaji(加治康男) (yasuoy.com)」「「侵攻は必至。戦う覚悟持たねば属国に」 米英の対日「中国恐怖」洗脳策動を抉る 8月16日差替 | Press Activity 1995~ Yasuo Kaji(加治康男) (yasuoy.com)」では、米国がオフショアバランシング戦略、統合抑止戦略の名の下、同盟国を敵対国と戦わせ、自国を無傷に置こうとしていることを指摘した。米英ハゲタカファンドに国富を簒奪され、社会保障・福祉、教育研究などの予算を削り続け、かつてない財政赤字を野放図に膨らませて、防衛費倍増に続き米国に命まで捧げるシステムが日本で構築されている。日本の人々が「目を覚ます時がきた」と自覚できないとすれば、座して自滅を待つことになる。
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