自民党の各派閥は菅義偉官房長官(71)支持へと雪崩打ち、9月14日の自民総裁選を待たずして菅総裁誕生が事実上決まった。自民党は二階俊博幹事長が二階派(47人)の菅氏擁立を早くから決めており、8月31日なると最大派閥の細田派(98人)、麻生派(54人)と主要派閥は相次ぎ菅支持に傾き、麻生派の河野太郎防衛相らは立候補見送りを表明した。菅氏は竹下派(54人)に強い影響力を行使する青木幹雄元参院会長に「安倍政権の路線を継承する」と語り、立候補を表明する考えを伝えたという。それは「100%米国とともにある」とのワシントンへの誓いと受け取るべきだ。
■菅訪米を再吟味せよ
菅氏は2019年5月にワシントンを訪問した。日々2回の定例記者会見をこなす内閣官房長官が4日間海外出張のため留守をするのは異例中の異例の出来事であった。
当時の報道によると、ペンス副大統領やポンペオ国務長官、シャナハン国防長官代行ら米国政府の要人と相次ぎ会談し、北朝鮮の短距離弾道ミサイル発射や、日本人拉致問題、在日米軍再編など幅広い分野で連携することで一致したという。表向きはトランプ政権幹部との面談とされたものの、日本への司令塔:米戦略国際問題研究所(CSIS)をはじめ米政権に大きな影響力を与える、いわゆる「ディープステイト」の面々と会合を持ったのは間違いない。
ワシントンサイドの本音は「菅氏を面談の上査定すること」であったはず。菅訪米をウオッチし続けた人物は「アメリカ側は、ポスト安倍の最有力候補者として認識したと言っていいと思う。かつて、小泉政権の時代に安倍さんが同じ立場で訪米した。今回、そのときと同じような状況がアメリカサイドで生まれた。」と語っていた。
■ペンスの激烈な中国敵視
因みに、ペンス副大統領は今年7月のポンペオ長官の対中冷戦宣言に先立ち中国に対し激烈な敵対宣告を行っていた。
二〇一八年一〇月四日に米ハドソン研究所で演説した同副大統領は「北京は南シナ海を軍事拠点化して対艦ミサイル、対空ミサイルを配備した」「中国は盗んだ技術で軍事力を著しく強大にし、西太平洋から米国を追い出そうとしている」と言葉で中国を激しく攻撃した。
トランプ米政権は二〇一七年末から一八年初めにかけて米安全保障戦略と米国防戦略を相次ぎ公表した。それは米国が国防方針を「テロとの戦い」から再び中国・ロシアとの大国間角逐(新冷戦)へと転換すると強く意思表示するものであった。ポンペオ国務長官の7月の中国に対する冷戦宣言はその集大成と言える。
■問題は来年9月の帰趨
ポンペオ国務長官やペンス副大統領は菅氏に「また会おうと再会を約束した」と報じられていた。
再会の約束は官房長官としてではなく「次は違った立場でまた会う」との示唆である。もちろん日本の首相として再会を約束したということだ。
親中派とされながらもワシントンと強く繋がっているはずの二階幹事長がこの1年ほど、菅氏と何故太いパイプを築いてきたのか、そして安倍退陣を受け自民党の主要派閥が何故雪崩込むように菅擁立へと動いたのかは明々白々である。
来年9月には全国の党員票を加えた総裁選が予定されている。菅政権は単なる安倍政権の幕引き役(クローザー)にすぎないのか。それとも本格政権に向けての戦略・行程表がワシントンから既に提示されているのか。これから1年ほど永田町とワシントンとの間のウオッチを怠ってはならない。
本ブログでは、繰り返しワシントンファクターの動きを注視せず、これを掘り起こそうとしない政局報道に中味はないと強調してきた。今回もあたかも日本国内の政治力学だけで自民党総裁選びがなされているかのような茶番報道が繰り返されている。こんな日本の政治報道はジャーナリズムに値しない。