9月6日に自民党総裁選挙に出馬表明した小泉進次郎が「労働市場改革として解雇規制の見直しに取り組む」と発言した際、竹中平蔵による「正社員は最大の既得権益」との暴言が脳裏をよぎった。米政府からの年次改革要望書を受け入れ米国の都合の良いように日本で規制緩和政策を進め、不良債権処理、郵政民営化と並び、非正規雇用を爆増させ、経済の血液となる労働者の賃金を下げ続けた小泉純一郎政権。このペテン師政権にウォール街が金融財政担当相として送り込んだのが竹中である。退任後は日本最大の人材派遣会社CEOとして千万単位の労働者の生き血を吸ってきたこの男は戦後史上最悪の政商でもある。小泉進次郎を首相にしてしまえば「竹中プラス小泉」という買弁を復活させ、雇用の底が抜け正社員のいなくなる日本の衰退に拍車がかかること必至である。
この小泉解雇規制緩和発言がすさまじいハレーションを巻き起こしたのは周知のとおり。SNSでは「小泉、竹中が日本低迷の大きな原因をつくった」「小泉純一郎は米国から言われるがままに閣僚経験もない50歳そこそこの安倍晋三を幹事長、総裁へと登用し、米軍に仕える軍国日本を再生した」「小泉の息子は最終的に日本を破綻させるために担がれている」などズバリ的をついた怒りの声が噴出した。丸山達也島根県知事ら地方自治体の長も憤りの声を上げた。
【写真】米国による日本弱体化を請け負った三人衆。右から小泉純一郎、竹中平蔵、安倍晋三。
焦った進次郎は9月13日の立候補者共同会見で「大企業で眠っている人材が成長分野に移動できる環境を作る」と言い繕った。「大企業で眠っている人材」とは無能の烙印を押され、窓際に置かれ肩を叩かれている従業員に他ならない。「成長分野に移動して」活躍できる人材なら「眠っている虎」なのだからこれを起こして自社で活用すればよい。「労働法を改正し、学び直し(リスキリング)や再就職支援を加える」との進次郎の言葉はあまりに空々しかった。追い詰められついには「解雇の自由化を言っている人は私を含めて誰もいない」と苦し紛れに述べ、「解雇規制緩和」と「解雇自由化」とがまったく重ならないと意味不明な弁解をした。
本ブログは一貫して言葉を変えながらも「米権力中枢にとって米国を脅かす大国となった中国の弱体化とともに、敗戦後も「奇跡の成長」を遂げ米国をはじめ西側諸国を再び脅かした日本をさらに弱体化することが必要なのだ」と主張してきた。日本弱体化を担った小泉・竹中の「聖域なき構造改革」により1999年には一人当 たりのGDPが世界2位であったのが2010年には世界27位に転落。失業・非正規雇用で人生に希望をなくした若者を中心に年間の自殺者が10年以上3万人を超える異常事態となった。「非正規雇用者と正社員との比率を是正するために正社員を非正規化する」との本末転倒した竹中・小泉話法には自民党総裁選に立候補した他の候補者も「(労働市場の流動化促進を認めても)労働条件の改善、正規雇用の確保、非正規労働者の正規化促進」との常識に沿って強く反発した。新自由主義が日本でも行き詰まりつつあることを予感させた。
「小さな政府、福祉国家見直し、市場万能主義、民営化」を推し進めたレーガン・サッチャー路線はソ連邦と社会主義の崩壊をもたらした。それから40年。冷戦勝利でおごり高ぶった米ネオコン主導の単独覇権主義はアフガン、イラク、中東での戦乱、挫折したカラー革命とウクライナ戦争で破綻しつつある。アメリカの単独覇権主義が対米対抗に向かう中露、BRICS、グローバルサウスの結束で大きく揺らぎ、同時に弱肉強食の新自由主義は反米欧勢力に見限られている。
【写真】7月6日、福島の海の安全をアピールするためエマニュエル米駐日大使と現地に出かけ、サーフィンを楽しんだ後、福島の食の安全をアピールする小泉進次郎。この際、エマニュエルから総裁選出馬の打診があったようだ。
会合後、小泉は次のようにXしている。
「今年はアメリカのラーム・エマニュエル大使と一緒に行きました。福島の海は相変わらず最高でした。波よし、人よし、天気よし。溜まっていた疲れも海に入って吹き飛びました。サーフィン後の取材では大使からも処理水放出後の風評払拭に取り組む思いが語られましたが、言葉だけでなく行動で示す政治家だと改めて感銘を受けました。これからも福島・東北・日本に対する非科学的な攻撃に日米でともに立ち向かっていく意思を行動で示すいい機会になりました。エマニュエル大使、ありがとうございました!」
上川陽子外相の「来年のカナダでのG7サミットで日本の総理として何を主張するか」との問いに小泉は「カナダのトルドーさんは43歳で首相になった。私は43歳。若い者同士胸襟を開いて議論し、G7の連携を図りたい」と答えにならない小泉話法を炸裂。あまりのレベルの低さを目の当たりにして自民党員の小泉支持率は急落しているようだ。極右高市早苗急浮上と右翼応援団は囃子たてている。石破茂、高市のいずれかが新総裁となってもワシントンからの猛烈なプレッシャーで身動きがとれなくなろう。解雇規制の緩和も違った形で対日圧力として浮上しよう。
所詮コップの中の嵐。自民党総裁選にうつつを抜かしている間に、ウクライナ情勢が緊迫の度合いを増している。米英は自国製長距離ミサイルをウクライナ軍を使いロシアの心臓部近くに打ち込ませようとし、ロシアは場合によっては戦術核使用を排除せず、ポーランドにあるNATOのウクライナ軍訓練施設への報復攻撃を示唆している。米ネオコンが支配しているかぎり、ウクライナ政府がロシアに妥協するのを許すことはない。一歩間違うとロシアとNATOとの全面戦争(世界大戦)への瀬戸際に向かいかねない。「私が大統領に復帰すればウクライナ戦争は一日で終わらせる」。このトランプの言葉に賭けてみたい気もする。しかし二度目のトランプ暗殺未遂は米権力中枢の怒りと焦りがどれほどのものかを示唆した。
ウクライナも、イスラエルも、グルーバルサウスも自民党総裁選の議論になることはない。せいぜい国連安保理改革程度であった。TV討論会の司会者を含め「政治とカネ」「政治改革」「地方創生」「改憲」などという無難な内向き議論に徹している。民放に出演する政治評論家は田崎史郎が独占する異常さ。彼らはワシントンという蛇に睨まれたカエルである。