「影のCIA」といわれ米政権の外交政策立案に相当程度影響を及ぼす米シンクタンク「ストラトフォー」は9月3日の菅義偉首相の辞任表明を受け、同29日に行われる日本の自民党総裁選を予想する記事を出した。それによると、「自民党の全派閥が結束して支持できる統一候補は安倍晋三前首相だけだ」とし、安倍出馬がない限り、日本は毎年首相が変わる回転ドア式首相の時代に逆戻りする可能性大と見立てている。本ブログは、このような米国の意向を受け、再々登板時期尚早の安倍晋三の分身として総裁選4候補の一人となった高市早苗に白羽の矢が立てられたとみる。9月28日現在、今回の自民党総裁選は終盤にきて当初泡沫扱いされた高市候補が大きく伸びているとの情報もある。3年以内にある次回総裁選を見据えた足場は固まった。米国の支配層が日本に最も望んでいるのは、「100%米国とともにあって」中国包囲網作りの先頭に立ち、軍拡にまい進する安倍晋三型政権である。
■今井の転身と高市の対中強硬姿勢
第二次安倍政権の約8年間首相補佐官を務め、安倍前首相の側近中の側近であった元経産官僚今井尚哉が対日司令塔である国際戦略問題研究所(CSIS)とも深くつながる「カーライル・グループ」日本法人のシニア・アドバイザーへと転身した。「カーライル・グループ」は、かつて米軍産複合体の中核になう投資会社といわれた。投資家から資金を集め、それにより企業を買収し、収益力を向上させて企業を転売し、売却益を出資者に配当するという、いわゆるプライベート・エクイティ・ファンドを運営している企業である。
しかし、2020年7月にCSISが出した報告書「日本における中国の影響」で今井が二階俊博自民党幹事長とともに親中派として名指しされ批判されたのは記憶に新しい。今井については「二階とともに中国の巨大経済圏構想『一帯一路』への協力を提唱」、「ビジネス的立場から対中姿勢をより友好的にするよう安倍元首相を説得」した張本人として敵視された。その今井のカーライル・アドバイザーへの「転向」は安倍自身の対中姿勢の変更とみるべきである。
こんな中、総裁選候補者となった高市の対中強硬姿勢が突出している。
高市は「敵基地攻撃能力の保有」として強力な電磁パルスを発生させて敵国の電子機器をまひさせる戦術を挙げた。現状では「電磁パルス(EMP)弾による敵基地無力化」を実行できる通常兵器はなく、核兵器が要る。だが敵国の超高度上空で核爆発を起こし、電磁パルスを発生させるために核武装するとは高市は主張していない。非核三原則や核拡散防止条約(NPT)体制との整合性についても同様だ。
この荒唐無稽な発言の現実性はどうでもいいのである。高市は防衛費10兆円、GDP比2%超を明言しており、中国への「毅然たる対決姿勢」を米国にアピールすることに狙いがあると見るべきだ。仮に高市が総裁選に勝利すれば、靖国神社参拝も就任後直ちに行いそうで、日中関係は決定的に悪化する。尖閣諸島周辺での軍事緊張はさらに高まり、バイデン米政権の対日勧告である「尖閣有事は台湾有事と心得よ」は現実化する。日本の新政権は4月の菅首相訪米時に対米公約した防衛費大幅増へと突き進むこととなる。これを裏で歓迎するのは軍産複合体と軍事投資会社であるのは言うまでもない。
■カーライル、CIA、CSIS
だが「カーライル・グループ」はいざというときには各国の政府や議会を動かして投資による利益獲得を狙う企業である。安倍退陣に伴い日本最大の軍事企業三菱重工の顧問を兼務する今井には自民党要人や官僚に深い人脈があり、それをてこに「カーライル・グループ」に多大な利益をもたらし得る立場にいる。安倍の最側近の元経産官僚が「カーライル日本オフィス」で活動している意味は大きい。