5年間で43兆円。はじめに予算額ありきの大軍拡だ。ところが2027年度に1兆円不足する財源確保問題が迷走し、財源の具体案は先送りされた。法人税、所得税、たばこ税、果ては復興特別所得税まで取り沙汰された。迷走の果ての先送りの前に、政府に防衛予算の大幅増を諦めさせるほどの大きな民意のうねりが起き、大軍拡そのものをチャラに出来ればメデタシなのだが…。今や民意が軍拡支持とされており、もうこの国につける薬はない。敢えて財源問題に踏み込む。なぜ推定1兆2千億ドル、現行円換算で150兆円~160兆円にも上る保有米国債売却の話が出てこないのか。不足分の1兆円の確保など、100億ドル弱の売却ですむ。あるいは米国債(外貨準備)購入予算の一部を回せば1兆円は容易く調達できる。日本政府はまるで蛇ににらまれたカエルだ。懲罰が怖いから貸金は事実上踏み倒されても文句ひとつ言えない。もはや奴隷である。
「日本や中国が多額の米国債を保有しているのは、対米貿易黒字分を最も安全な米国債で運用しているため。貿易黒字が反転すれば徐々に米国債の保有額も減る。」
これが”常識論”とされ、あたかも日本政府取得の米国債は売買の対象ではないかのごとく言われてきた。しかし、民間シンクタンクからは「日本政府は、ドル安によって“評価損”が発生しているときは、米国債は売るに売れないという立場だった。かつて財務省は1ドル=112円までドル高が進めば含み損はなくなると答弁していた。130円を超えてドル高が進行している今は売りの絶好の機会」との声も出ている。
”含み益”が巨額に膨らんでいるのに、政府からも与党自民党からもまるで米国債の話は出てこない。要するにタブーなのである。
日銀は、円高防止の為に円売り=ドル買いの為替介入を行う。しかし、それが米国債を保有している主たる理由ではない。日本は、米国の忠実な属国として、米国の借金である財務省債券(米国債)を買わされてきた。ただ米国債は事実上売れない状態にあるが、100兆円以上の米国債を保有しているのだから、毎年数兆円相当のドル建て金利収入がある。この金利収入も防衛財源の候補に上がっていいはずなのに、サイレントである。
何故タブーとなり、政府与党関係者を黙らせているのか。
1997年6月、当時の橋本龍太郎首相は米コロンビア大学で講演、「私は何回か日本政府が持っている財務省証券(米国債)を大幅に売りたいという誘惑に駆られたことがある」と述べた。これで、ニューヨーク証券市場で株や米国債が急落した。橋本のNYでの講演は全体的には慎重な言い回しとも受け取られたが、米権力中枢の逆鱗に触れた。
ニューヨークダウは192ドル下落して1987年のブラックマンデー以来の大幅な値下げになった。日本の一部メディアは猛烈な経世会・橋本おろしキャンペーンを展開。10か月後の参院選で自民党が大敗したため橋本内閣は総辞職し、政権を追われる格好となった。
それから8年後に橋本は腸管虚血による怪死と言わざるを得ない死に方をした。弟の橋本大二郎氏は「これまでほとんど例のないような、腸に突然、血が回らなくなるという原因の分からない病気だった」と語り、病理解剖でも原因は不明とされた。
橋本の総理辞任は、米国が日本の政界の主流を旧田中派の経世会からウルトラ親米右翼の清和会(安倍派)へと転換していく過程で起きた。
2009年9月、るいネットは「清和会に対立した経世会の末路」として以下のような一覧表を掲載した。
田中派)田中角栄 逮捕 ロッキード事件 (←東京地検特捜部)
(経世会)竹下登 失脚 リクルート事件 (←東京地検特捜部)
(経世会)金丸信 失脚逮捕 佐川急便献金・脱税 (←東京地検特捜部&国税)
(経世会)中村喜四郎 逮捕 ゼネコン汚職 (←東京地検特捜部)
(経世会)小渕恵三 (急死)(←ミステリー)
(経世会)鈴木宗男 逮捕 斡旋収賄 (←東京地検特捜部)
(経世会)橋本龍太郎 議員辞職 日歯連贈賄事件 (←東京地検特捜部)
(経世会)小沢一郎 西松不正献金事件 (←東京地検特捜部)
(経世会)二階俊博 西松不正献金事件 (←東京地検特捜部)
(清和会)岸信介 安泰
(清和会)福田赳夫 安泰
(清和会)安倍晋太郎 安泰
(清和会)森 喜朗 安泰
(清和会)三塚 博 安泰
(清和会)塩川正十郎 安泰
(清和会)小泉純一郎 安泰
(清和会)尾身幸次 安泰
ところが、派閥は違うが、ウルトラ右派で安倍晋三に近かった中川昭一も有名な2009年2月ローマでのG7泥酔会見で失脚し、怪死した。中川は「リーマンショックで財政破綻寸前の国々を日本の米国債(外貨準備金)1000億ドルをIMFに拠出して救済すると発表した。詳述は避けるが、IMFへの出資は、米国債が日本から離れることを意味する。市場で売却するわけではないが、IMFの判断によって米国債が流動性を持つことを米政府は恐れ、世界経済に重大な衝撃を与えた。中川の発言は橋本発言を上回るインパクトがあったのだ。
バブル経済の最盛期、1980年代後半の日本の政官財には明らかにアメリカを見下す風潮がまん延していた。その象徴が米国債購入であった。日本は断トツの米国債購入国であり、当時の大蔵官僚には「借金して大量消費するアホなアメリカ人を堅実で貯蓄性向の極めて高い日本人が養ってやっている」と口走る者がいた。エリートエコノミストには「アリ(日本)とキリギリス(米国)」に例え、アメリカを嘲笑する向きがあった。
その付けは大きかった。1990年代バブル崩壊後も踏み倒される貸金である米国債をせっせせっせと買い続ける財務省。財務官僚の野心は米支配下の世界銀行、IMF、アジア開発銀行など国際金融機関での‟良いポスト”を得ることに向けられている。彼らは日本の官僚ではなく、米国の一員なのである。ワシントの各機関に詰める出向キャリア財務官僚の数は在米大使館に詰める外務キャリア官僚のそれを大きく上回るという。
こんな中、アメリカに盾突くことなど万に一つもあり得ない。橋本、中川の事件は極めつけのレッスンである。