麻生ー岸田の関係を視点を変えてもう一本掲載する。二人の関係を斜に構えてみれば米国が日本をどうハンドルしているかが浮かび上がる。麻生は、岸田の首相就任早々容姿を「男前」とほめちぎった。就任して半年たつと「(ボンボン顔で)頼りない顔。大丈夫か」と思っていたが、そこそこやる」と持ち上げ、昨年1月に安保3文書、敵基地攻撃能力を手土産に訪米し帰国すると「『あまり頼りがない』と言われた人の下で、間違いなく日本は世界の中で地位を高めつつある」と絶賛した。
まず麻生は容姿について語る際男女の区別なく口を慎むということはない。2021年10月には菅義偉前首相について「実績が上がったにもかかわらず、菅内閣の評判が悪いのは(菅氏の)顔が悪いから」と侮辱し、「岸田新首相はなんとなく男前っぽく見える顔。あの顔がやっぱりいい」と述べている。22年4月には「安倍(晋三)とか麻生とか売られたけんかは必ず買いますみたいな顔したやつはダメ」、岸田のように「ちょっと控えめで優しく、柔和でほわっとしたやつの方が、今みたいな時にきちっとやる」。
麻生の岸田の容貌評「ちょっと控えめで優しく、柔和でほわっとしたやつ」は何を示唆しているのか。米国は日本に軍事大国化を迫りつつも日本の政治リーダーの芯が「護憲リベラル」ハト派であることを求めているということと推察できる。米ネオコンが東西冷戦終結後の米単独覇権の確立の一環としての中国包囲網形成に軍事大国志向の自民党清和会(安倍派)を利用しようとし、集団的自衛権行使を実現した後は、安倍派を支える岩盤保守層の極端な右ぶれ(反米化)を封じるために保守本流宏池会の岸田グループを復活させたことは本ブログで繰り返し指摘してきた。「ちょっと控えめで優しく、柔和」との岸田の容貌評にそれが黙示されている。「けんかは必ず買います」と言われた安倍のような皇国史観に染まった戦前回帰志向の右翼は御用済みとなりましたと言いたかったのだ。
岸田内閣の支持率が危険水域の30%を割ると麻生は今年1月こう激励した。
「(岸田内閣は)安倍内閣の時だってできなかったものを全部やっている。それでも人気は上がらないんだから、しゃーないんですよ。そういうもんだと思っときゃええやないですか。人気があるからなんぼのもんです、と。」「(岸田文雄首相には)ぜひ、淡々と自信を持って、覚悟を持って臨んでいただかないといかん。そういった厳しい状況にある」
政府が防衛関係費を国内総生産(GDP)比2%に増やす方針を決めたことには、「安倍元首相が夢にまで見た数字をさっと決定した。リーダーシップがないという理由はどこにあるのか」とも語った。
この岸田へのエールは麻生の口を経たワシントンからものであろう。米の対日要望にはウクライナ復興支援をはじめ、台湾有事危機の高まり、ロシア、中国、北朝鮮の脅威増幅を口実としたさらなる軍拡もある。「権力に対する抵抗心」に欠ける日本の民衆を「絞りつくす」というのがネオコンの本音であろう。少なくとも9月の自民党総裁選までは岸田をフルに利用したいのではなかろうか。麻生の「美しい方とは言わんけれども、堂々と話をして、英語できちんと話をし、…『このおばさんやるねえ』」との上川陽子外相評は宏池会のメンバーから新鮮味のある「ポスト岸田」候補の名を挙げたかったためであろう。少なくとも麻生訪米で作成した日米合作シナリオの一つと思える。
参考記事
「平和憲法に触るな」「超国家主義集団を一掃する」~米支配層の根深い対日不信 近代日本第3期への視角2