「中国封じ」でNATO拡大 仏、独軍もインド太平洋へ

本ブログでは、欧州連合(EU)離脱を機に再びグローバルパワーを目指す英国が日本との軍事連携を深め、西太平洋で米豪日印の4カ国連携・クアッドによる中国封じに参加する動きを伝えてきた。注1 太平洋に海外領土を持つフランスも2014年以来英国を追う形で日本と軍事連携を進め既に物品役務相互提供協定(ACSA)を締結している。12月にはこの動きにドイツまでが参入する意向を表明した。執拗に中国を敵視する論者の中には「『日本を含む西側民主主義陣営VS中国を基軸とした独裁国家群』という、新しい冷戦構造の成立を予兆」させるとして、「世界でとてつもなく大きな地殻変動が起きている」と訴える向きがある。しかしながら、コロナ禍を克服して経済覇権掌握寸前にまで台頭した中国の脅威は西側資本主義国の脆弱さを露呈させている。NATO主要国政府が太平洋へと軍事展開しているのは追い込まれ、米欧主導の既存の国際秩序の変更を拒もうとしている証である

■仏、独の動き

日本の茂木外相は10月1日、フランスでルドリアン外相と会談。同日にドイツのマース外相ともテレビ会議で討議した。報道によると、これを通じて日仏独3カ国の外相は「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた連携強化で一致した。さらにドイツのクランプカレンバウアー国防相は12月15日、日本の岸防衛相とのオンライン対談で、独軍艦船を来年、インド洋に派遣する方針を表明した。

 

【写真】2019年5月にインド洋で実施された仏空母「シャルルドゴール」を核にした仏、米、豪軍の合同訓練に自衛隊が参加

 

 

 

 

 

 

この仏独外相との会談と日独防衛相会談は、10月6日に東京で開かれた日米豪印外相会議とパッケージになっている。第2回4カ国外相会議の中心議題はいうまでもなく「自由で開かれたインド太平洋の実現」であり、海洋進出を進める中国を念頭に「自由で開かれたインド太平洋構想」を推進することだった。実際、この時点で、中国の近隣国であるASEAN加盟国が動かないため、英、仏、独といった西欧の大国へと連携の輪を拡大することで合意がなされていたのだ。

■RCEP締結で焦り

米英仏独をはじめとする西側主要国にとって、11月15日に中国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドと東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国による東アジア経済圏が出来上がったことは大きなショックであった。新経済圏形成にインドが参加しなかったとは言え、日本・中国・韓国・ASEAN10ヵ国に、オーストラリアとニュージーランドを加えた15カ国が参加している「東アジア地域包括的経済連携協定(RCEP)」に署名した15か国は、世界の人口とGDPの3割を占める。米国との軍事同盟破棄へと動くフィリピン、中国と一体のラオス、カンボジアをはじめASEANの米国離れは顕著だ。注2

RCEPの発足により、今後中国を核とする相互依存ネットワークが強化され、地政学に新たな構図が生まれかねない。米欧主要国の政財界はこう危惧したようだ。トランプ米政権は発足直後の2017年1月、中国を除くほぼ同一地域をカバーする環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱を発表、米国主導の巨大自由貿易圏構築のチャンスを自ら放棄している。

これを「中国にとって究極の『棚ぼた』だった」と評した論者がいる。中国は年初のコロナ禍のピンチを克服し、強化して年末を迎えようとしている。しかもその経済発展は14億人の旺盛な内需に支えられつつある。一方で、米国は甚大なコロナ禍と、大統領選後の大混乱で経済は衰退している。英国や欧州連合(EU)主要国とて同様に焦りを募らせている。

■経済排除され、軍事プレゼンスで対抗

米欧の焦りをピークに導いたのが、中国の習近平国家主席が11月20日に環太平洋経済連携協定(TPP11)への参加意欲を表明したことだ。

「バイデン次期政権になって米国がTPPに復帰すれば、中国にとってTPPがより強力な対中包囲網になる最悪のシナリオとなる。それを回避するには、中国が米国の復帰前にTPPに加盟するのが得策だ。先に加盟すれば、逆に米国のTPP復帰を阻止して、米国をアジア経済圏から排除できる」

中国の思惑をこのように読む論者がいる。的を射ている。

米国にはTPP復帰を阻む難題がある。自由貿易が米国人の仕事を奪っているという2016年の大統領選でのトランプの主張は、米国中西部のラストベルトの人たちにアピールした。このためオバマ前政権はTPP協定の議会承認を得ることができなかった。そうした状況は今も変わらないようだ。「外交のバイデン」を標榜する米次期政権は難しいかじ取りを迫られている。

本ブログで強調したように、米欧の保守本流は共産中国を解体・分割する中長期的な戦略を描いている。中国主導の東アジア経済圏発足を目の当たりにして、米英豪に加え、EU中核国の仏、独までが東シナ海、南シナ海を含む太平洋での軍事プレゼンス展開へと動かざるをえなかったのが実情であろう。

■問われる「自由と人権」の内実

太平洋にある英、仏の海外領は19世紀から20世紀前半にかけての欧米列強の植民地主義・帝国主義のいわば「残滓」である。仏軍7千人が駐屯する南太平洋ニューカレドニアは独立一歩手前まできている。バンドン会議とも呼ばれる1955年アジア・アフリカ(AA)会議の精神を踏まえ、反植民地主義を唱え自主独立、非同盟の第三世界をリードしようとする中国を安易に独裁国家と切り捨てて良いのか。

【写真】ニューカレドニアで今年10月実施された独立の賛否を問う第2回住民投票。僅差で否決(反対53.3%、賛成46.7%)されたため2022年までに3回目の投票が行われる予定。

 

 

 

 

 

 

 

米欧諸国が債務の罠、新植民地主義などと罵詈雑言を浴びせる中国の海、陸の「一帯一路」構想からもバンドン精神はくみ取れる。

新華社によると、中国は10月3日、国連総会第三委員会でアンゴラ、アンティグア・バーブーダ、ベラルーシ、ブルンジ、カンボジア、カメルーン、中国、キューバ、朝鮮、赤道ギニア、エリトリア、イラン、ラオス、ミャンマー、ナミビア、ニカラグア、パキスタン、パレスチナ、ロシア、南スーダン、スーダン、スリナム、シリア、ベネズエラ、ジンバブエなど26ヶ国を代表して米国と西側諸国による「人権侵害」を批判した。これに対し、狂信的な反中論者らは26カ国を「独裁・ならず者国家」と断じ、人権を口にする資格なしと攻撃している。

第二次大戦後、「世界の警察官」を装い米国は反米国家を体制転換するため一貫して主権と人権を侵害、蹂躙してきた。その内実については、8月18日掲載記事「新冷戦への米国の情念「民主化」と体制転換  」などで論じた。

国際情勢の軸となった中国に日本はどう対処すべきか。米国の指令をオウム返しするだけでは外交とは呼べない

 

注1:「チャイナ・アズ・NO.1の衝撃 震撼する米欧」や一連の日英軍事連携関連記事を参照されたい。

注2:「菅外交デビューの示唆するもの 米国は対中冷戦を貫徹」など菅ASEAN歴訪記事を参照されたい。