米露首脳としてのトランプとプーチンはトランプ一期目の2017年7月にヘルシンキでのG20首脳会合の際に初会談した=写真。ロシアゲート事件はさておき、二人は事前に度々電話会談しており、ヘルシンキでも2時間半近くも話し込んだ。「現代世界を蝕む、ディープステート(DS)あるいはグローバリストと呼ばれる米英権力中枢を解体するー」。これが両首脳の共通目標・絆ではないのか。プーチンは2007年2月ミュンヘン安保会議で「冷戦後自己中⼼の⼀極世界に向かう米国は、⾃国の勝⼿な要求を武⼒で世界に押しつけてきた。だが今後世界は多極化する」とウクライナ戦争の導火線となる反米演説を行った。これに呼応するかのようにトランプは、第二次大戦後は軍事介入主義を貫く米国の主導する国際秩序を解体するため、まずは米国自体の体制転換に乗り出した。ウクライナ停戦へと進む中、「ウクライナの非ナチ化」を訴えてきたプーチンがトランプを新生アメリカの指導者として5月9日の対ナチ戦勝記念日に招待する可能性が高まっている。ウクライナへ平和維持部隊を派遣しそうな中国・習近平も参加すれば世界の歴史は大きな転機を迎える。
■英仏と袂分かち、米露一体
2025年2月24日、「ロシアのウクライナ侵攻」から満3年経った。ウクライナ戦争を巡りトランプ政権の米国とロシアが国連で共同歩調を取っている。報道されたように、満3年に合わせて国連総会は同日、特別会合を開き、ロシアを非難、ウクライナの領土保全を支持する欧州側提出の決議案を93カ国の賛成多数で採択した。しかし米国はロシアなど18カ国とともに反対票を投じ、65カ国が棄権した。旧ソ連時代を含め米露が初めて同盟国のように歩調を合わせた。まさに歴史的転換と言うべきである。
この日、国連安全保障理事会(常任理事国5か国、非常任理事国10か国)の会合も開かれ、米国は「紛争終結」を求める決議案を提出した。米国の決議案は「紛争の早期終結」、「ウクライナとロシアの永続的な平和」の実現などを求めると同時に、「戦争」ではなく「紛争」と表記し、ロシアを非難する文言を避けた。この決議案は、米国、ロシア、中国はじめ10カ国の賛成多数で採択された。ロシア非難が含まれていないため、米国の主要同盟国であった英国やフランスなど5カ国が棄権した。
米国はこの日の2度の採決で、いずれもロシア側につき、ウクライナ戦争を巡る米国の姿勢の転換をはっきりと示した。すなわち、トランプ第二次政権はこれまで同じ安保理の西側常任理事国だった英国、フランスをはじめ欧州主要国と袂を分かち既存の国際社会の枠組みを変えたのだ。これは世界に衝撃を与えた。
■トランプの政敵CIAとナチス
トランプ政権も強調しているように、ウクライナで戦っているのはオバマ、バイデン両政権に率いられた米国とプーチン・ロシアである。オバマ政権は2014年にネオ・ナチを使ってクーデターを起こし、ウクライナの親露政権を追放した。戦争の目的はプーチン体制が崩壊するまでロシアに軍事的圧力をかけ続けることだった。だが2021年に後継したバイデン政権は戦争を泥沼化して停戦・和平の道筋を見えなくしてしまった。英仏を中心とする欧州の政治エリートやDSはクーデターで実権を握ったウクライナのネオ・ナチ体制の崩壊を恐れている。
このネオ・ナチ体制はトランプの政敵CIAの支援と英国の諜報機関MI6の尽力で構築された。クーデターを仕掛けるCIAに工作資金を流す主要機関は米国際開発庁(USAID)と全米民主主義基金(NED)だった。さらにNEDから国家民主国際問題研究所(NDI)、国際共和研究所(IRI)などにも資金が流れている。トランプは第二次政権発足後直ちにUSAIDの機能を停止した。これらはDSの主要な一角で、本ブログは2月20日掲載記事「”作られた対テロ戦争” USAID・CIAとテロリスト」でこの問題に触れた。
米政権ですらその暗躍をコントロールできなくなった米中央情報局(CIA)の発祥の地はトランプの故郷ニューヨークの金融街ウォールストリート(WS)にある。ケネディ大統領に解任されたアレン・ダラス第5代 CIA 長官とその兄で日米安保条約締結交渉に当たったジョン・ダレス国務長官のキャリアにおける初期活動はWSの多国籍弁護士事務所サリバン&クロムウェルをベースに米国務省とクライアントである財閥系多国籍企業の橋渡しをすることであった。DS・グローバリストの一角を占める多国籍企業のための彼らのロビー活動は、やがて諜報活動へと向かう。
アレンは1918年パリ講和会議で叔母の夫ロバート・ランシング米国務長官のスタッフとなる。講和会議終了後、ワイマール共和国への米派遣団副団長としてドイツ人とのコネクションを築く。対独投資を望む米産業界の意を受けて訪独した兄ジョンとともに働く。当時、米政府は共産主義の拠点ロシアの勢力拡大を警戒し、欧州での情報収集活動を強化していた。アレンはスイス・ベルンを拠点にCIAの前身となる戦略情報局(OSS)を設け、対ソ連封じ込めのためナチスドイツを全面支援する。
1945年5月のナチス崩壊後もOSSはナチ幹部の逃走、潜伏を助けたため、欧州ではソ連崩壊後、南部ドイツなどに潜伏していたネオナチの活動が活発となった。非ロシア系住民が多く、侵攻してきたナチスドイツ軍に協力的だった西部・中部ウクライナが冷戦終結・ソ連崩壊後、ロシア系住民の圧倒的な東部ウクライナと敵対するのは自然な成り行きだった。ドイツでトルコ人など移民を襲撃、虐殺し、注目されたネオナチは西部ウクライナでナチスに協力したウクライナ民族主義者集団バンデラ派の復活を促す。
トランプがこのような歴史的な事情を念頭に入れ、プーチンと協力してウクライナのネオ・ナチ体制とそれと結びついた米英のDS・グローバリストを解体しようとしているのは疑いの余地がない。
■ウ戦争:ネオナチ対プーチン
2022年2月24日、ロシアがウクライナに対し軍事侵攻を開始した際、プーチン大統領は「「特別軍事作戦」の目的はウクライナの「非軍事化」と「非ナチ化」だ」とし、停戦交渉の条件として提示した。西側の「識者」にはこれをクレムリンのプロパガンダとして冷笑する向きが目立った。しかし、米政治専門紙「ザ・ヒル」は2017年に「ウクライナの極右の存在は決してクレムリンのプロパガンダではない」との記事を掲載、「ウクライナにネオナチ集団は存在しないというのは悲しいことに間違いである」と断定した。
また2014年から2022年にかけ現地を取材、調査してまわったジャーナリストや研究者は異口同音に「この数年でウクライナの極右・ネオナチの存在が問題化していたことは常識のレベルの話。ウクライナが、欧米の国々のように単にネオナチ思想をもつものが軍隊にいるとか、極右政党が議会に勢力を確保しているというようなレベルではなく、黄色信号を超えた危険水域に達している」と警告。「黄色信号を超えた危険水域」を次のように説明していた。
「ウクライナでは極右・ネオナチと呼ばれる勢力が政権や行政や司法に関与している」「この勢力が軍事化し国軍勢力の中核にいる」「ウクライナは「世界で唯一ネオナチの民兵が正式に軍隊になった」国である」「勢力をウクライナの政治から文化まで拡大しつつあり、将来的に民主主義への敵対勢力となり得る」「ウクライナは世界の極右やネオナチのハブとなっており、ISのように世界的にネットワークを広げて、コントロール不能になる恐れがある」「過去のナチス協力をめぐる「歴史修正主義」がウクライナを席巻しており、イスラエルなど関係国は強く批判した」
ウクライナの現大統領ゼレンスキーは、ウクライナにネオナチズムが勃興した最中の2019年5月に就任した。米有力メディアの中にもゼレンスキー政権は情報操作して民族主義的な極右過激思想組織C14などネオナチとの関係を隠蔽していると批判する向きがある。とりわけ問題とされているのが、2020年10月に英国を公式訪問した際、英対外情報機関MI6のリチャード・ムーア長官を非公式に訪ねたとされている件だ。翌2021年にはかつてのナチスをまねるかのように、超法規的措置としてゼレンスキー政権の政策に反対する国内のテレビ局をはじめすべてのメディアを閉鎖、すべての左翼政党と社会運動も禁止した。
ゼレンスキーとプーチンは水と油である。ゼレンスキー・ネオナチ体制打倒がプーチンにとって「危機の根本原因の除去」となる。トランプ政権はこれを理解した上で動いている。
■トランプのいる対ナチ戦勝記念日
2月28日にホワイトハウスを訪問したゼレンスキーはトランプやバンス副大統領と激しい口論を繰り広げた。その最大の原因は「ウクライナの安全をどう保障するのか」とのゼレンスキーの言葉だったと思われる。「停戦しても再びロシアが侵攻しないとの保証がない」というのだ。トランプは暗に「ネオ・ナチ体制となったウクライナこそロシアの安全保障の脅威であり、2022年に特別軍事作戦に踏み切らせた原因だ」と言いたかったようだ。
「プーチンは2000万-3000万人とも言われる死者を出した80余年前の独ソ戦は終わっていないと考えている」「ソ連邦崩壊を受け、ロシアを支配しようとする米英がネオナチを使って仕掛ける新たな戦争にロシアは引き込まれたからだ」-。トランプはこう考えてプーチンとともにウクライナのネオ・ナチ体制とこれを後押しする米英権力中枢と闘っている。
ウクライナ戦争が停戦にこぎつけていれば5月9日の対ナチ戦勝記念日にプーチンはトランプを招くであろう。中立的な中国がウクライナへ平和維持部隊を派遣する可能性も高い。そうなれば習近平も姿を現す。ロシアの軍事同盟国となり兵士をウクライナ戦争に送った北朝鮮の金正恩も出席するだろう。「日本の安全保障環境は中露北の核に囲まれ最悪の状況にある」と叫び、米民主党政権と軍産複合体DSに媚びてきた日本の自民党政権はどう動くのか。
【写真】2023年の戦勝記念日で演説するプーチン大統領。写真右は9月3日の「対日戦勝記念日」式典。ウクライナを支援する日本を「非友好国」扱いしており、2023年対ナチ戦勝記念日にプーチンは「日本軍国主義を打倒した中国を讃える」と演説した。