「永田町騒動記」の裏側 米国に仕切られる自民党

9月29日に行われた自民党総裁選の結果は、前日28日に掲載した「自民総裁選:次を見据える高市 軍産複合体と日本の軍拡」の予想と合致した。岸田文雄率いる暫定的な政権が発足するが、「自民党のすべての派閥が結束して支持できる統一候補は安倍晋三前首相だけだ」との93日付シンクタンク「ストラトフォー」予想記事に従うかのように、与党自民党の役員人事や主要閣僚の選定は、自民党が再び「安倍一強」に戻ったことを示している。これはとりもなおさず、いかに日本の政治がワシントンの思うままに動いているかの証である。再度言う。ワシントンの動きに一切言及しない日本メディアの「永田町騒動記」は報道の名に値しない。

■終わった宏池会の役割

岸田は8月末にいち早く立候補声明を出し、「国民の皆さんの中に国民の声が政治に届かない、あるいは政治の説明が国民の心に響かない。こうした厳しい切実な声があふれていました。いままさに我が国の民主主義そのものが危機にあると強い危機感を持ち、総裁選挙に真っ先に手を挙げた次第です」と述べた。これは9年近く続いた安倍政権プラス菅政権でため込んだ数々のスキャンダル、長期1強政治の膿を絞り出すとの決意であった。しかし、森友事件などスキャンダルの再調査を口にしたとたん、安倍に睨まれて、たちまち言葉を翻す始末だ。

岸田は戦後日本政治の保守本流と呼ばれた宏池会の領袖であり、宮澤喜一以来30年ぶりの宏池会政権となる。しかし、日本の保守政治は1989年東西冷戦終焉後の湾岸戦争、アフガン侵攻、イラク戦争を遂行する米ネオコン政権によって主流が入れ替わった。吉田茂の吉田学校を源とし池田勇人の率いた「軽武装経済優先」の宏池会路線は、安倍晋三の祖父岸信介を源流とする「反共強国」の清和会路線に取って代られたのだ。この路線は米軍と一体化した強い軍隊(自衛隊)を有し積極的平和主義という名の中国に対抗する軍拡路線の選択であった。詳しくは2020年12月掲載の「保守「主流」逆転と米国の圧力 反共強国と清和会支配1」「その2」を参照されたい。

■1年回転ドア政権の可能性も

新総理となる岸田は「日本型新資本主義」を唱えて、新自由主義の跋扈を抑え、格差の是正、分配重視に依る消費拡大・成長路線を打ち出している。いかにも宏池会らしいリベラル保守主義を匂わせるが、これは到底米支配層の受け入れるところではない。つまり、岸田政権の役割は腐敗し国民に飽きられた安倍・ネオコン政治を一時的に目くらましする役割を担うことにある。

安倍・麻生、この背後にいるジャパンハンドラーたちはこれを念頭に入れて岸田政権発足と11月の総選挙を大勝で乗り切る算段と思われる。岸田政権は今冬第6波も予想される新型コロナウィルス感染対策でつまづき、来年の参院選が乗り切れなければ菅政権と同様、1年回転ドア政権となる可能性も大きい。安倍・高市派はコロナの収束を待って安定政権作りを目指していると思える。

今回の総裁選で二階俊博幹事長が失脚し、菅首相は河野惨敗で影響力をほぼ失い、麻生太郎は率いる派閥が岸田支持と河野支持で割れ指導力を衰退させた。安倍だけが安泰で力をさらに増した。唯一の懸念材料である東京地検特捜部が再捜査している「桜を見る会」事件が不起訴となれば安倍は首相に返り咲ける。岸田政権はそれまでの「中継ぎ政権」となる。安倍には次は高市を首相にして、院政を敷く道も残されている。

岸田が率いるのは第五派閥の宏池会(46人)。党内基盤は弱く、安倍が事実上率いる最大派閥細田派(96人)と第二派閥麻生派(53人)を率いる麻生に依存するほかない。上記のように、党役員・組閣人事も安倍・麻生の意向を早々と全面的に受け入れている。

「米国も中国も汚いトイレ」

第二次安倍政権末期には進まない改憲手続き、経済重視の対中姿勢に右翼保守層から失望の声がはっきり上がり始めていた。安倍が懸命に分身高市を売り込んだのは自民党細田派を支える右翼岩盤支持層を繋ぎとめるためでもあった。その効果はてきめんであった。高市の議員票は、86票だった河野を上回る114票。安倍は「(我々は)確固たる国家観を示した。私たちの論戦によって、はがれかかっていた多くの支持者が自民党に戻ってきてくれたのではないか」と保守層をつなぎとめたと率直に述べている。

繰り返すが、ひたすら中国と北朝鮮の脅威を煽り、有権者の怒りと不満を米国に向かわせないことが対米従属保守政権の「使命」である。「米国も中国も汚いトイレ。どちらが汚いのか」。「親米反中」の右翼グループの中からも米国への反発、不満がはっきり漏れ聞こえてくる。戦後76年。ワシントンは日本の右翼を手なずけ、泳がす術にさらに磨きを掛けようとしている。

総裁選前はリベラル新世代のホープとされながらも、今や巷間「第二の石破茂となる」と観測されている河野太郎は次第に干され、さらに力を削がれていくと見られる。次回の総裁選に出馬しても高市に大差をつけられ再び惨敗しよう。