脱亜入欧の末路:米英に「同盟国の長」と煽てられ、アジアで孤立 近代日本考・補

1868年(明治元年)から1945年(対米戦争敗戦)までの77年を近代日本第一期、1945年から2022年までの77年を近代日本第二期と命名した。第一期では英米のロシア(ソ連)・ユーラシア封じ込め政策に乗せられ一定の近代化を成し遂げた末、大日本帝国は米英に見限られアジア太平洋戦争に突入して破綻、解体した。第二期は米国に占領されて7年後に「独立」を果たすが、新生日本はその後も事実上米国の保護国として歩む。21世紀に入ると日本はアジアの新リーダーとなった中国を米英主導のアングロサクソン同盟国や旧欧州列強とともに封じ込める道を選択した。その果てに、日本はアジアの中で孤立し、米英に巧妙に操られ国力を疲弊、衰退させている。2023年の第三期元年を前に、明治期(19世紀末)の在野スローガン「脱亜入欧」の末路がはっきり見えてきた。「脱亜入欧」は今日に至るも福沢諭吉の論説『脱亜論』に由来すると誤解されているが、その論旨は真逆である。今こそ「学問ノススメ」にある「一身独立して一国独立する」との福沢の言葉を改めて胸に刻む時である。現代日本の状況に照らせば、それは「日本人が米国に対する卑屈な依存から脱却できない限り、日本は真の独立国になれない」と意訳できる。

■新軍事同盟「AUKUS」:足蹴にされた日本

日本のメディアはごく一部を除き、掘り下げた報道をしていないが、2021年の9月から12月にかけて”日米同盟”=日米安保の本質が白日の下にさらされ、日本の対米追随政権を震撼させる事件が起きた。

米国は9月15日、英国と豪州をパートナーに選び、新たな米英豪3カ国軍事同盟「AUKUS ( Australia・ United Kingdom ・United States)」を結成した、と発表した。極秘にことは進められており、日本の政府関係者や専門家にとっては「寝耳に水」の発表となった。首相官邸、外務、防衛両省など日本の関係者には激震が走ったことだろう。

なぜならここ10年ほど、米国は日本の安倍晋三元首相が「開かれたインド太平洋」構想を提唱したとの作り話の上に、日米豪印4カ国・クワッドの中で日本を「現状を一方的に変更する覇権主義中国」を封じ込める「4カ国同盟の長」とまで祭り上げてきたからだ。注 バイデン米政権は2021年1月の発足以来一貫して「中国との軍事衝突は望まない」と訴える一方、日本に対しては「尖閣有事は台湾有事と心得よ」と台湾防衛を押し付けた。これが2021年4月15日、義偉首相(当時)をワシントンに呼びつけて行った日米首脳会談の核心だった。

この時、ワシントンで菅首相に単独会見した米ニューズウィーク誌は米英両政府の意向を代弁し、首相に「米国にとって日本は今や英国と肩を並べる『特別な関係』にある」との歯の浮くような使い古した文句で持ち上げ、5月18号ではカバーストーリーとして「新章の日米同盟 台頭する中国の陰で新たな「同盟国の長」となる日本の重い責務」との記事を掲載した。「新たな『同盟国の長』となる日本の重い責務」とは「日台有事一体化と台湾防衛の責務」であるのは明々白々だった。さらに新たな「同盟国の長」日本は「米国抜き、単独でも台湾を防衛せよ」と暗示している。なぜなら米現政権は中国との軍事衝突を回避したいと公言しているからだ。

こんな中、AUKUSが突如出現した。日本の政府高官らはショックを覆い隠すかのように「日米同盟は所詮、外様である」などと自嘲気味に語ったとされる。ある日本人国際政治学者東大准教授はAUKUSを「長期的には21世紀全体を通じて米国が拠り所にする同盟」と捉え、米英豪は『ファイブ・アイズ』というインテリジェンス共有の5カ国の枠組みのさらにインナーサークル。そのさらにコアグループだ。日本からすると批判するというのではなく、現実としてそういうものなんだという受け止めがある」と語っている。「日米関係は所詮こんなもの」とでもいいたげである。

米国サイドでは「英国と豪州は、米国にとって最高レベルの同盟国といえる。日米豪印4カ国(クアッド)にはインドのように同盟国ではない国も含まれているが、英国と豪州は過去の戦争を一緒に戦ってきた関係がある」(ランド研究所研究員)というのが識者の一般的な見方となっている。

端的に言えば、日本はジョン・ダレスが70年前の講和条約締結後に記した「不信感を拭えない潜在敵国」なのだと改めて通告されたに等しい。さんざ持ち上げられた末に、足蹴にされたのだ。2021年4月の菅訪米はワシントンによる「日本ほめ殺し」として長く記憶されよう。

 

 2021年4月22日掲載記事「ハンバーガー午餐が示すバイデン、菅の不協和 台湾巡り軋む日米」、同5月1日付掲載記事「『台湾有事は日本有事』 日本を台湾防衛の盾に仕上げる米」、同5月17日掲載記事「『中国の台湾侵攻』巡る3つの嘘 偽装の『日台有事一体』」などを参照されたい。

 

■「ほめ殺し」中にAUKUS極秘準備

菅義偉首相の訪米のハイライトとなる首脳会談前の2021年3月末に、日本の準同盟国オーストラリアの元外務副大臣&元スポーツ観光相アンドリュー・トムソンが「世界の未来は日本にかかっている 中国の侵略を阻止せよ」とのタイトルの本を刊行した。菅訪米が公表されて以来、バイデン米政権異様なまでに「日本最重視」を宣伝した。元豪閣僚の書籍はその集大成となる代弁だった。その「日本持ち上げ」ぶりは上記の米ニューズウィーク日本版のそれを上回る。

本の帯には「想像してごらん 中国が支配する世界を 香港,台湾,尖閣諸島……。中国の「力による現状変更」の脅威が迫る。いま世界の「自由」を「独裁」から守る砦こそ日本である! “Silent Invasion"を受けたオーストラリアの実情を知る親日家からの熱いメッセージ。」と編集者のPRがある。

著者トムソンは序文で「中国はパンデミックを引き起こしておきながら、この危機を利用しようとするでしょう。もしかしたら、彼らはそれを計画したのかもしれません。中国はまた別の危険なウイルスを世界に解き放つかもしれません。クアッド(日・米・豪・印)のメンバーはこの地域を守る準備をしなければなりませんが、アメリカの深刻な内部問題のために、オーストラリアと日本はクアッドでもっと大きな役割を果たさなければならないという厳しい現実があります。日本は憲法を改正し、尖閣諸島だけでなく台湾を守るために海上で戦う準備をしなければなりません。台湾が降伏すれば、世界は大惨事に陥り、日本は主権を失うことになるでしょう。日本だけが世界を救うことができるのです。」と記す。

日本政府が米国の日本防衛義務を記したとする安保条約第5条など有事に際してはいかようにも解釈できる。米国が東シナ海の小さな無人島の領有権を巡り中国と正面から戦うと本音で思っている米国の関係者、識者は皆無であろう。要するに、台湾防衛は日本に丸投げし、万一の台湾・尖閣有事の際には米英豪は「高みの見物をする可能性」が示唆されている。

「日本は中国との経済関係を犠牲にして米豪印との4カ国同盟(クアッド)を強化せよ。南シナ海の中国の軍事用人工島沿いや台湾海峡での『航行の自由作戦』をはじめとする英国、フランスを加えた対中軍事牽制への参加に踏み切り、米主導同盟国グループの抑止力向上のため日本は防衛力を大幅に強化せよ」。こう日本政府は恫喝されているのだ。

■安倍マレーシア特使中止の背景

これほど米英豪にいいように使われながらも、安倍晋三元首相が懲りなく米英の代理人を買って出ている。

2021年12月1日。同元首相は台湾のシンクタンクが主催するフォーラムでオンライン講演を行い、中国が台湾に武力攻撃すれば日米同盟の有事になると述べた。=写真 「尖閣列島や先島諸島、与那国島などは台湾から100キロ程度しか離れていない」と指摘。「中国の台湾への武力侵攻は日本に対する重大な危機を引き起こす」「日本の有事となり、日米同盟の有事でもある」としたうえで、「この点の認識を北京の人々、とりわけ習近平主席は断じて見誤るべきではない」、「台湾が強く、繁栄し、自由と人権を保障するなら、日本だけでなく世界全体の利益になる」と語った。これはワシントンに代わっての露骨な中国への恫喝であった。

ワシントンの本音は「中国との武力衝突回避」だ。安倍は「中国の台湾への武力侵攻は…日本の有事で、日米同盟の有事でもある」と発言したが、米政府は「日米同盟の有事だみ足と批判しているとの報道もあった。上で繰り返し指摘したように、ワシントンにしてみれば「尖閣有事は台湾有事。日台の有事は一体化している。台湾を防衛するのは日本」だからだ。

米国は中国封じの要と言える東南アジア諸国が米国を大きく上回る経済的絆を中国と結び、米国を振り返らなくなったことに苛立っている。シンガポールのリー首相やフィリピンのドゥテルテ大統領らは毅然と軍事、経済ともに「米国か中国か」という二者択一で迫るな、そんな時代は終わったと明言している。

菅首相が2021年4月の訪米を前に東南アジア諸国連合(ASEAN)事務局のあるリーダー国インドネシアと最も中国と対決的なベトナムを訪問したように、安倍元首相ら日本の歴代首相もワシントン詣で前のASEAN歴訪を義務付けられてきた。それは米国の「ASEANをこちら側に取り込み、の成果を”献上”せよ」との指示である。

2021年1月に発足したバイデン米政権は日本にもはやASEANを説得する力なしとみなしたようで、7月にオースティン国防長官をフィリピンやベトナムなど3か国に、ハリス副大統領を8月にシンガポールとベトナムにそれぞれ派遣し、ASEANとの関係強化を試みた。だが、当然にも、成果は無きに等しかった。

そこで登場したのがまたしても安倍元首相である。反米・非同盟運動のリーダーだったマレーシアのマハティール元首相が「日本に学べ」とルックイースト政策を提唱して2022年は40周年となる。そこで安倍は自ら岸田文雄首相に自分を売り込んだようで、12月3日にマレーシア特使として現地に赴く予定であった。ところが1日にコロナ禍を理由に中止となった。とは言え、コロナ禍は口実で、マレーシア政府が安倍をワシントンの代理人とみなして拒否した可能性が大きい。代わりに、岸田首相が翌2日、マレーシアのイスマイルサブリ首相と約半時間電話協議を行った。ASEANは中国牽制色を帯びたインド太平洋ではないとする独自の「インド太平洋」構想を打ち出し、日米英豪の「自由で開かれたインド太平洋」と一線を画しており、これを首脳会談で日本側に改めて伝えたようだ

2004年に「日本人よ。成功の原点に立ち戻れ」と呼びかけたマハティール元首相は近年、米国に追随するばかりの日本への失望をさらに深めている。ASEANの日本を見る目は一層厳しくなった。

こんな折、ナレンドラ・モディ首相とプーチン露大統領が12月6日、インドの首都ニューデリーで首脳会談を行った。インドが海軍基地をロシアの艦艇の燃料補給や補修に利用させる協定締結へ向けた協議開始で合意するなど両国は軍事・エネルギー面での関係を強化した。。インドは、日米豪との枠組み「クアッド」に参加したが、ロシアとはソ連時代から深い軍事関係を維持しており、この動きはクアッドの空洞化を意味する。

日本は東アジアだけでなくアジア全体での孤立を深めている。