鈍する日本の報道を象徴 共同通信の英首相来日延期記事 

ここ10年の英国の日本への軍事的な急接近の背後に何があるのか、明治維新以来、米英アングロサクソン同盟がいかに日本を世界戦略のコマとみなし操ってきたかー。この問題意識と視点を欠く限り、日米安全保障条約締結によるアメリカの事実上の対日軍事占領継続、すなわち戦後日本の米国による保護国化と隷属の真相は見えてこない。人口に膾炙することのない本ブログが時代の逆流に抗しながらこの2年間掲げてきたテーマである。

米英同盟の世界規模での不可欠な補完軍事力として利用され、東アジア・西太平洋地域では「開かれたインド・太平洋」における「同盟の長」と煽てられ、中国封じ込め戦略の先兵として使われるようになった今日の日本。コロナ禍で中止になったとはいえ、いずれ近く訪日する英国の首相と日本の首相が締結する新軍事協定は今後の日本の行方にとって分水嶺となるビックイベントだ。

にもかかわらず、1月31日、共同通信は以下のような首相官邸ニュースを配信した。

「英国のジョンソン首相が2月中旬に来日し、岸田文雄首相と会談する日程を取りやめたことが31日、分かった。日英両政府で調整を進めていたが、ウクライナ情勢の緊迫化や、ジョンソン氏の新型コロナウイルス対策の規制下でのパーティー参加疑惑を受け、英国側が来日中止を申し出た。複数の政府関係者が明らかにした。

 松野博一官房長官は31日の記者会見で『(ジョンソン氏の)訪日を調整中との事実はない」と説明した。『わが国はグローバルな戦略的パートナーである英国との関係を極めて重視している』とも指摘。今後もさまざまな取り組みを通じて関係を一層強化していく考えを示した。

あまりにお粗末な報道である。グローバルな戦略的パートナーである英国との関係」とは何か。英首相はこの10年で積み上げた日英軍事連携の仕上げのため来日するのだ。英首相訪日の核心に一言すら切り込めない。一般読者には具体性を欠き、意味不明である。深堀りの難しい定例会見記事とはいえ、これでは読者には何も伝わらない。しかも「日本政府は今後もさまざまな取り組みを通じて関係を一層強化していく考えだ」と尻込みにダメを押した。「さまざまな取り組み」とは何か。雑すぎる。取り組み事例の1つなりとも具体的に書いてこそ報道と言える。

激減する新聞購読部数。加盟新聞社からの加盟費歳入も年々著しく減少し、このほど正規職員数をかつての1900人体制から1300人と大幅削減した社団法人共同通信社。貧すれば鈍するのか。破綻解体へと向う恐れのある共同通信の明日を予兆するかのような記事であった。

電通の筆頭株主であり、公開された株を大量売却して2003年に超高層ビルを建設、高級ホテルをテナントとした東京新橋の新社屋=写真=はまるで砂上の楼閣のようだ。

以下、2020年11月に本ブログに掲載した記事「英国は日英同盟復活へと動く 中国包囲の裏に日本管理も」の冒頭部分と結論を掲載して、共同記事を補完する。

「2018年12月30日付英サンデー・テレグラフ電子版は、ギャビン・ウイリアムソン英国防相(当時)が同紙とのインタビューで、『欧州連合(EU)離脱後、英国は再びグローバルパワーを目指し軍事力を強化する』『二年以内に太平洋と大西洋に二つの海外基地を新設し、うち一つはブルネイかシンガポールに設ける』と語ったと報じた。2020年11月現在、西太平洋地域の新海外基地の場所選定は正式公表されていないが、英軍は2019年からブルネイを拠点に軍事演習を実施しており、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国中ブルネイを含む5カ国が中国と南シナ海でせめぎ合う領有権紛争に英国は米国とともに積極関与を始めた。こんな中、英国は合同軍事演習のための「物品役務相互提供協定(ACSA)」などを締結している日本政府と両国部隊が相互に相手国に入国する際の審査を不要にする「共同訓練円滑化協定」の締結交渉に入った。既に『準同盟』関係にある日英両国は、日英同盟が失効して100年目を迎える2023年までには中国封じを目的とする軍事同盟を復活させそうな勢いにある。だが一方、英国軍の東アジアへの展開には米英の戦後対日政策の核心である『日本を再び脅威としない』という日本管理と対日抑止の意図が透けて見える。」

「このような南シナ海、東シナ海・尖閣列島を含む西太平洋域での中国とASEAN、そして日本との領土問題が日英両国を軍事連携へと向かわせる大義名分を与えた。2012年に戦略的パートナーシップの構築に関する共同声明を発表して日英防衛協力覚書が署名されたのを皮切りに、2013年に防衛装備品協定、2014年には情報保護協定、そして2017年に物品役務相互提供協定(ACSA)が締結された。現在は日米地位協定に準ずる共同演習実施円滑化協定の締結交渉が行われている。オーストラリアは日本とは11月17日の日豪首脳会談で円滑化協定締結で大枠合意しており、英国がこれを追う形となっている。

西太平洋域ではクアッドと呼ばれる米日豪印の4カ国による中国包囲網が形成されつつある。米国は南シナ海問題を抱えるASEAN諸国の包囲網への参加を呼び掛けているが、先行掲載記事「バイデンはポンペオ路線継承へ 日・ASEAN関係重くで指摘したように、東南アジア諸国はこれを拒み、参加へと動く気配はない。

【写真】2018年10月、日本本土(北富士演習場)で実施された初の日英合同演習

 

英国の東アジア、太平洋への軍事進出、そして日本との本格的な軍事連携開始は、米国主導のクアッドとともに中国のパワー拡大を抑止することを目的にしているのは明々白々。2018年末の『欧州連合(EU)離脱後、英国は再びグローバルパワーを目指し軍事力を強化する』との英国防相発言はこのようにして具現化されている。

さらには、英国軍の東アジアへの展開から見え隠れする米英の戦後対日政策の核心である『日本を再び世界の脅威とならないよう操作する』との対日抑止の意思を知るには近年の日本のNATOとの関わりを注意深く観察する必要がある。」

このほか、最近掲載の「中国を封じ込め日本を操る米英の策略を見抜け 近代日本第三期考1  差替版」、「日米安保破棄と対米自立を再び争点に(その1) 近代日本第三期考2」「脱亜入欧の末路:米英に『同盟の長』と煽てられ、アジアで孤立 近代日本考・補」をはじめ多数の関連記事を参照されたい。