トランプ米政権が解体を進めるディープステートの主要な一角米国際開発庁(USAID)はCIAやアジア財団と組んで東南アジアでテロリストを養成した。ソ連邦崩壊を受けて米国はネオコンが1991年にウォルフォウィッツ・ドクトリンと呼ばれるアメリカ単独覇権体制のための国防指針を作成した。この指針はソ連崩壊による東西冷戦の終焉とやがて台頭する中国との新冷戦開始の間を埋めるべく「テロとの戦い」を作り出すものだった。新たな敵中国は米英日豪などがインド太平洋戦略に沿い東から封じこめ、西からはイスラムテロリズムで包囲するとともに、同時にイラク戦争にみられるように中東の再編を狙っていた。
ウォルフォウィッツ・ドクトリンとほぼ期を同じくしてフィリピン、インドネシア、マレーシアにウサマビンラディン率いるアルカイダの傘下とされたイスラム教徒テロ組織が続々と結成され、欧米人の身代金誘拐、無差別自爆テロ、金融機関襲撃などを繰り返し、人々を恐怖に陥れる。米ソ両超大国の核に代わってイスラムジハーディストの西側を狙ったテロ活動が切実な脅威として煽られた。少なくとも1990年代半ばには台頭したイスラム過激派のテロリズムをどう封じるかが国際的な課題となる。
ちょうどこの時期、イスラム反政府勢力の活動が活発なフィリピン最南端の大島ミンダナオ島の中核都市ダバオにUSAIDは「ミンダナオ均等発展プログラム(GEM)」を遂行する事務所を立ち上げた。「武器から農場へ(From Arm to Farm)」を合言葉に、フィリピン政府に反政府武装組織モロ民族解放戦線(MNLF)に自治権を与えさせ、資源の宝庫ミンダナオを内戦による荒廃から開発と和平へと導くプログラムを遂行しようとした。だがMNLF主導のミンダナオ和平はMNLFと袂をわかったモロイスラム解放戦線(MILF)などとの反政府勢力間の内輪もめを激しくし、続々と生まれた反和平派グループはアフガンや中東のアルカイダ系組織と接近する。その媒体となったのがUSAID及び一体のCIAであった。
MNLF幹部とUSAID・CIAとの親密さはダバオ市内のUSAID事務所前に乗り付けた車の中の出来事で確認できた。MNLFのカリスマ議長のヌル・ミスアリ側近が通称チャーリーと呼ばれた米国人USAID事務所長(周囲の噂はCIA工作員 )が車内で親しく話し合っている。市内某所で会合を持ち、事務所まで車で帰ってきたチャーリーらは、話がつきないといった雰囲気だった。反和平派グループによると、USAID・CIAは米軍がフィリピン軍に供与した武器をMILF分派のテロ組織に横流し、同時にテロ活動資金も供与していた。それに最大組織MNLFも絡んでいたのは間違いない。「和平」を唱えながら元仲間に資金を流し、破壊と混沌を増幅させていた。ミスアリ側近とチャーリーとの密談もこの延長線上でとらえた。金まみれであった。
最も過激なテロ活動を繰り返したアブサヤフ(ASG)の設立者がアブドゥラジャク・ジャンジャラニ(Abdurajak Janjalani)である。1981年から1984年にかけサウジアラビアとリビアに留学。1987年にパキスタンへ渡航して9・11の首謀者とされたオサマ・ビン・ラディンと知り合い、アフガニスタンでソ連との戦闘に加わる。フィリピン南部における独立国家建設を標榜していたMNLFに当初所属していたが、「イスラム国家」の分離独立を掲げて1991年4月に「イスラム運動」(ASGの正式名称)を設立した。ジャンジャラニのビンラディンへの紹介、帰国してのASG立ち上げには米諜報機関が関与したのは間違いない。
2001年の9・11(米同時多発テロ)に向けて東南アジアでは自爆テロが頻発した。テロ実行者の選抜もMNLF、MILF、多数の分派テロ組織が関与している。「この金で家族は貧困から脱却できる。お前はアッラーの下に行ける」。こんな勧誘で無知な若者が続々と無差別爆弾テロの実行者となった。資金がどこから出たかはいうまでもない。
1998年は2001年9・11に向けての前哨戦の年だ。ケニア、タンザニアの米大使館爆破事件=写真=が起き、米政府は国際テロ組織アルカイダが関与したと断定し、スーダンとアフガニスタンをミサイル攻撃したからだ。フィリピンでは首都マニラでも乗り合いバスなどが次々と爆弾テロの標的となる。テロへの恐怖が頂点に達したころ、米同時多発テロが発生。フィリピン・ミンダナオがアフガニスタンに続く対テロ戦争第二弾の場に選ばれた。「テロリストを掃討するため米軍がフィリピン国軍を手助けする」との口実で米軍がフィリピンに再駐留した。その米軍は現在、南シナ海を挟んで中国と対峙している。
するとフィリピンにおけるテロとの戦いは1992年の米軍完全撤収を受けて、米軍がフィリピンに回帰するための策略だったことになる。「テロとの戦い」は作られたものだ。それを舞台裏で支えたのがUSAIDとCIAとなる。彼らはトランプがいう「狂った連中」である。
参考記事:
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