本ブログ5月20日付の記事「宮島での記念撮影でマクロン仏大統領、一人手を振らず G7サミットの米英主導に抵抗」触れたように、フランス大統領は中国を敵視する米国主導のG7には同調しないとの姿勢を貫いた。広島サミットの首脳声明に「中国に率直に関与し、建設的かつ安定的な関係を構築する用意がある」「グローバルな課題及び共通の関心分野において、国際社会における中国の役割と経済規模に鑑み、中国と協力する必要がある」などの前向きな文言も盛り込まれたのは独仏両国、とりわけフランスの働き掛けの成果であろう。そのマクロン氏が広島から帰国途上の5月21日、仏大統領として初めてモンゴルを国賓として訪問した。中国主導の上海協力機構(SCO)への正式加盟へと向かう、この地政学的に極めて重要な国への電撃的訪問は4月のマクロン訪中時に習近平主席と合意した案件だったのではないかとの見方も一概には否定できない。自国の独自外交を「欧州の戦略的自律」に高めようとするフランスは、欧州連合(EU)の中核国として中露ブロックと事実上連携して米英アングロサクソン同盟に対抗している

:モンゴルは現在、SCOのオブザーバー国(準加盟待遇)

以下の記事を参照されたい.

独首相訪中の衝撃:G7を空洞化、中露主導の新ユーラシア構想への参入を促進  | Press Activity 1995~ Yasuo Kaji(加治康男) (yasuoy.com)

「米国も中露に追い詰められている」 ウクライナ危機もう一つの視点 | Press Activity 1995~ Yasuo Kaji(加治康男) (yasuoy.com)


【写真】マクロン大統領とフレルスフ・モンゴル大統領

 

一方ドイツのショルツ首相は広島から独首相として30年ぶりに二国間会談のため韓国を訪問。西側メディアは「最大貿易国中国への依存度を下げようとするドイツは,半導体など先端産業分野や軍事技術で韓国との連携を拡大する方針」と強調した。だが同首相は訪韓前に韓国メディアに対し「日韓の歩み寄りを歓迎する」「インド・太平洋地域の状況を踏まえると両国の緊密な協力が重要だ」と語り、訪韓を巡る米国への配慮をはっきりと滲ませた。フランスが同様に米国の中国封じの代名詞・「自由で開かれたインド・太平洋構想」に同調する姿勢を示そうとするには旧仏植民地であるインドシナ諸国、とりわけ南シナ海での領有権問題で中国と深刻に対立し、フランスと2013年に戦略的パートナシップを締結したベトナムを訪問するのが妥当だったはずだ。

仏大統領府筋は、モンゴルは「ロシアや中国といった巨大な隣国への対処能力を高めるために、協力関係の多様化を目指している」、「歴史的な仏大統領の初訪問が実現したことはロシア、中国以外の国々と広く外交関係を展開する『第三の隣国』政策に回帰するうえで特別な意味を持つ」とコメントした。同大統領府が発表した「フランス・モンゴル共同声明」は「モンゴルはフランスを重要な『第三の隣国』とみなし、フランスはモンゴルを特権的なパートナーとみなす。両国は、民主主義、人権、基本的自由及び法の支配という相互尊重及び共通の価値に基づく強固なパートナーシップを再確認した」などと謳い、多岐な分野にわたるフランス・欧州連合(EU)のモンゴルへの開発援助が誓約された。第三国についての言及は、核開発を進める北朝鮮に対し国連決議遵守を要求するにとどめている。

マクロン仏政権は2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻を受けた同3月2日国連総会でのロシア非難決議で反対、棄権に回った計40カ国との対話を重視してきた。モンゴルは棄権した35カ国の1つであり、マクロン政権は米単独覇権体制の終焉を加速するために日本からの帰途モンゴルに立ち寄ることを早くから計画していたと思われる。もちろん、4月に訪中した際、習近平主席から歴史的にも難しい2国間問題を抱えているモンゴルとの関係をもっと改善したいとの強い意向を打ち明けられ、それが最終決断を促した可能性もある。

モンゴルは中国が5月にG7サミットの日程に合わせて開いた中央アジア5カ国と並び米国が影響力を強めようと尽力しているユーラシアの国の1つだ。中国が改革開放政策を奏功させ目覚ましく台頭を始めた1990年代半ばごろから米国は日本を代理として使い、南太平洋諸国、アフリカ、そして中央アジア・モンゴルと首脳、閣僚レベルで開発援助を柱に対話を続けている。中でも冷戦終結後、中国の台頭で中露に挟まれた中央アジア・モンゴルの地政学的、戦略的な重要さが著しく増した。

しかし、上記国連の非難決議に賛成しなかったのはロシアを除くと、ベラルーシ、北朝鮮、シリア、エリトリア、アルジェリア、アンゴラ、アルメニア、バングラデシュ、ボリビア、ブルンジ、中央アフリカ、中国、コンゴ共和国、キューバ、エルサルバドル、赤道ギニア、インド、イラン、イラク、カザフスタン、キルギス、ラオス、マダガスカル、マリ、モンゴル、モザンビーク、ナミビア、ニカラグア、パキスタン、セネガル、南アフリカ、南スーダン、スリランカ、スーダン、タジキスタン、ウガンダ、タンザニア、ベトナム、ジンバブエ。

米国に追随する日本の第三世界取り込み戦略は徒労に終わっていると言える。モンゴルのG7終了直後のマクロン国賓招待は米日に少なからぬ衝撃を与えたはずだ。

マクロン仏首相は2023 年2月のミュンヘン安保会議で「我々がいかにグローバルサウス(新興国・途上国)の信頼を失っているかを知り愕然とした」と語り、注目された。マクロン氏は昨年3月以降グローバルサウスと精力的に接触を続け、この積み重ねがミュンヘンでの警告発言につながった。それは今回のG7広島サミットにグルーバルサウスの一部の国を招き、深刻な貧困、エネルギー、環境問題を抱える新興国や途上国との関係のあり方が主要議題とされる契機となった。

西側メディアが恐らく意図的に触れなかったのは第三世界・グローバルサウスのリーダー国は1955年バンドン会議(アジア・アフリカ会議)開催という歴史的経緯からみてもインド、インドネシア、中国であることだ。そして今や中国が圧倒的な経済力で第三世界・反米欧グループをけん引している。この事実を受け入れ中国と融和して、欧州を米中と並ぶ第三極と位置づけようとしているG7参加国の1つがマクロン率いるフランスである。

環球時報によると、中国はウクライナ危機の打開を図るため李輝ユーラシア問題特別代表を欧州5カ国に派遣。代表団は5月24日、仏政府高官とパリ・エリゼ宮で意見交換した=左写真=李代表は、マクロン大統領の4月の中国訪問の成功を強調、両国首脳が到達した重要なコンセンサスを実行し、世界の平和、安定、発展の維持に引き続き貢献すると述べた、という。近年中国はモンゴルと首脳レベルをはじめ対話を深めており、中国の立場に理解を示すマクロン氏のモンゴル訪問を高く評価したのは間違いない。