19日差替:凍結状態の安倍暗殺事件公判 公訴棄却しかねない暗黒国家 

2022年7月に奈良市で安倍晋三元首相が山上徹也被告により銃撃され死亡したとされる事件の公判の遅延にはただならぬものがある。凍結中と言っても過言ではなく、事件そのものがなかったものにされかれない。そこには深い政治の闇がある。裁判所も検察も過度に委縮している。まず自民党最大派閥安倍派の解体をねらった派閥政治資金パーティ収支裏金事件の捜査が優先された。山上公判を並行しては実施できなかった。さらに自民党派閥清和会(安倍派)と統一教会やCIA,KCIAとの関係、自民党と統一教会の発足がともにCIA資金によることが改めて明るみに出かねない公開裁判を総選挙や自民党総裁選挙と時間を重複させて実施するわけにはいかない。ならば少なくとも今年9月の総裁選や来年10月に任期満了となる衆議院の総選挙が終わるまでは、凍結状態が続くことだろう。これは公平な裁判と司法の独立を著しく侵害する。この国を暗黒国家にしている闇勢力はできれば公訴そのものを棄却したいとうかがっているようにさえ思える。

「司法を通じて権利利益が適切に実現され、司法がその役割を十全に果たすためには、公正かつ適正で充実した手続の下で裁判が迅速に行われることが不可欠」と謳われ裁判員裁判の導入を含む裁判迅速化法が2003年に成立した。裁判員制度は、刑事事件ごとに選ばれた一般市民(有権者)が、裁判官らと一緒に判決へ参加する制度。安倍暗殺事件の公判も裁判員裁判となった。近年の最高裁による裁判迅速化検証結果によると、裁判員裁判の審理期間は、3か月余りで安定して推移している。また、公判前整理手続の期間も、自白事件では約8か月、否認事件では約6か月となっている

一方、安倍暗殺事件は2022年7月8日に発生。現場で容疑者として逮捕された山上徹也被告に対する起訴手続きが終わったのが翌23年3月30日。同日の4件の追起訴で8カ月余り経た一連の捜査が終結。速やかに行われるべき公判前整理手続き開始(第一回手続き)は同年6月12日の予定だった。ところが、奈良地方裁判所に同日不審な小包が山上被告宛に届き”騒動”に。期日は延期でなく取り消しとなった。同手続きは23年10月に初めて開かれたが山上被告は欠席。今年1月の第2回手続きには同被告は出席した。2回の公判前整理手続きは非公開で行われ、終了後に弁護士が報道陣に対応した。共通しているのは①整理手続きは2回とも30分未満のごく短時間で終了②次回期日はいずれも未定ーとされたことだ。

公判前整理手続きは取り消された昨年(2023年)6月の第1回期日から数えて9か月目に入り、最高裁の検証結果の平均期間をすでに上回っている。なのに今後の整理手続きの流れや公判開始についてはまったく見通しが立たないでいる。公判前整理手続きは膨大な証拠を抱える煩雑な裁判事案の公判迅速化を目的とするとされている。この公判が膨大な証拠を抱える煩雑なものになることに関しては、本ブログ掲載論考「「安倍氏の心臓に穴」と救命医 警察これに蓋して4カ月 絶望的なメディアの沈黙 」などを参照願いたい。これまでの経緯をみると検察や裁判所は「公判の迅速化」ではなく「遅延化」を行っていると言える。

まず山上被告は逮捕後、必要性に疑問符がつく長期鑑定留置を強要された。留置は通常2~3カ月で終わるが、5カ月を超す異例の長さになった。起訴手続きも2023年1月の本起訴後も追起訴を繰り返し、検察の公判請求手続きが終わったのは同年3月。第1回公判前整理手続きは同年6月に予定されたが、上記のように山上被告の減刑署名の入った小包が金属探知機に反応したという極めて不自然な理由で打ち切られた。ジャーナリスト江川紹子らによる公判整理手続きの公開請求は当然のように却下された。かつてない重大事件で、証拠は膨大、煩雑で公判前整理手続きには各回ごと少なくとも数時間を要するとみられた。だが、10月の初回は20分、今年1月の第2回整理手続きは30分。しかも次回期日は未定とされる。

報道からは、山上被告の弁護人に検察、裁判所への対決姿勢はみじんも感じられない。そもそも数人と言われる弁護団はどのように選任されたのか。国選なのか、私選なのか。そのプロフィールもベールに覆われている。初公判について、弁護団は「今年の後半以降になる」と語ったという。これでは「来年以降」、「見通し立たず」と述べたに等しい。そもそも法曹三者と呼ばれる公判関係者に「公正かつ適正で充実した手続の下で裁判が迅速に行われることが不可欠」と謳われた裁判員裁判の導入を含む裁判迅速化法を尊重する意思がまったく感じられない。

「三大刑事弁護人」の一人といわれる高野隆弁護士は公判前整理手続きの現状を厳しく批判し、若手弁護士に対し「裁判官のやりやすいように弁護士が餌食にされている。もっと警察や裁判官、検事と戦ってほしい」と訴えている。同弁護士は「本来の目的が迅速化と充実化だった裁判員裁判の公判前手続きは、そうはなっていない。裁判官が判決文が書ける状態にもっていくだけの役人の利益最優先だ。クソな仕組みを延々と維持してはいけない」と呼び掛けている。

小泉純一郎内閣での小泉首相=写真=や竹中平蔵金融担当相による郵政民営化を巡る疑問点や矛盾点を追求していて冤罪事件に巻き込まれたとみられるエコノミストの植草一秀元早大大学院教授は自身のブログで最近こう書いた。

「日本の警察・検察・裁判所は腐敗している。犯罪が存在するのに無罪放免にする裁量権、犯罪が存在しないのに無実の市民を犯罪者に仕立て上げる裁量権が濫用されている。犯罪を実行した主体が与党国会議員、霞が関官僚であると、無罪放免にすることが多い。逆に政権与党を厳しく攻撃する人間に対しては無実の罪を着せて犯罪者に仕立て上げることが行われる。このような国を「暗黒国家」と呼ぶが、日本は文字通りの暗黒国家である。警察内部の犯罪も殺人や強姦を含めて無罪放免にされることが多い。この現実を正視する必要がある。」

安倍暗殺事件を巡る公判は米国に支配された日本の「暗黒国家」ぶりをまざまざと見せつけている。暗黒国家を運営する公安警察・検察、司法官僚のメンタリティは自由と人権が徹底無視、抑圧された戦前・天皇制国家の支配原理を継承している。捜査機関、裁判所の違法な裁量権濫用に目をつぶる報道も死んでいる。

 

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