まるで「殺された安倍さんの敵を討つ」と言わんばかりの挑発的な発言だった。安倍晋三殺害の背景を最も深く知る一人と思われる高市早苗は意を決したように対米挑発した。9月9日に高市が日の丸を掲げた自民党総裁選出馬会見場で見せたパフォーマンスはまるで本土決戦に追い込まれようとしていた1945年6月に鹿児島・知覧から飛び立ったゼロ戦に搭乗する特攻隊員の姿と重なった。機体はすでに滑走路を飛び立った。あとは沖縄本島を取り囲むように停泊する米海軍艦船群を自爆攻撃するだけである。「知的レベルはかなりの水準にある」高市だけに発言には対米特攻のイメージがある。日の丸に一礼して会見に臨んだ姿に日本の岩盤保守層が拍手喝采する中、今日も日本を実質占領し続けるワシントンが排除に動くのは必至。
まず靖国参拝について。「国策に殉じられ自分たちの祖国を守ろうとした方に敬意を表し続けることは希望するところだ」と内閣総理大臣としての参拝実施を明言した。2024年8月15日。高市経済安全保障担当相と木原稔防衛相ら3人だけが岸田内閣の閣僚として靖国に詣でた。毎年参拝を怠らない高市はまるで安倍の化身のように「命をかけて多くの方々が私たちの美しい国土や家族をお守りくださった。仲間たちと一緒に力を合わせて、この日本列島を強く豊かにして次の世代に引き渡す使命を負っている」と語っている。
ここでは日本政府が降伏を受諾したポツダム宣言、占領下に連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)が実施しかけた靖国神社焼却計画、そしてオバマ政権の安倍首相靖国参拝批判を取り上げて、高市発言の問題点を指摘する。
ポツダム宣言の筆頭条文は「日本軍国主義の駆逐および軍国主義指導者の権力と勢力の永久除去」である。日本陸海軍が管轄し、戦没軍人を祭神=英霊として祭る靖国神社こそは日本の狂信的な軍国主義の礎である。ポツダム宣言の唱えた日本軍国主義の駆逐と靖国解体はびったり重なる。GHQは1945年末、日本の 「国家神道」 解体を目的とする「神道指令」を出した。その草案作りの過程で「軍国主義・超国家主義の源泉は国家神道にあるとして」、靖国神社を焼却、解体しようとする強い動きが出たが、最高司令官マッカーサーの最終判断で一宗教法人としてかろうじて存続した。現在も米英メディアを中心に靖国神社は「war shrine」と呼ばれている。
高市が慕ってやまない安倍晋三の靖国参拝は米側の憤激を呼んだ。特に、2013年12月に首相として参拝した際、オバマ政権は在日アメリカ大使館を介して「失望した」との異例の声明を出した。その後、オバマ政権は訪日したヘーゲル国防長官とケリー国務長官を無宗教施設・千鳥ヶ淵戦没者墓苑に参拝させた。米側の意図は清和会(安倍派)を核とする右翼政治家集団には受容されなかった。それどころか右派集団は内心反米マグマを煮えたぎらせたはずだ。
【写真】2006年9月の第1次安倍内閣で、内閣府特命担当大臣として初入閣した高市。2014年9月発足の第2次安倍改造内閣では女性初の総務大臣に登用されている。
一方、当時ワシントンの某シンクタンク日本部長を務めジャパンハンドラーと近い日本人研究員だった人物は日本のメディアに「おおむね日本では『米政府はそんなに腹を立ててはいない』『日米関係にはあまり影響はないだろう』という楽観的な雰囲気のようだ」が、「ワシントンで生活している身としては、大いなる違和感を感じる。ワシントンでアジア政策に何らかの関わりを持っている人たちの間では、今回の総理による靖国参拝は大問題として認識されており、安倍総理を見る目は格段に厳しくなっているからだ。『大使館に出させたのは手ぬるかった。ホワイトハウスからの声明として出すべきだった』という声すら挙がっている」と伝えた。
この日本人研究員は高市の発言にはさらに「大いなる違和感を感じる」ことだろう。安倍はこれ以降首相在任中は靖国参拝を取り止めたが、首相退任から一月も経ない2020年9月19日に靖国参拝した。以降靖国詣でを続け、100人規模の極右議員団体「創生日本」の会長に返り咲き、果てはウクライナ戦争を巡り間接的ながらプーチン政権を擁護する姿勢を示すようになり、まもなくして暗殺された。高市は出馬会見後民放テレビで「「(同盟国に)こちらの立場を説明し、参拝できる環境をつくる」と述べたという。高市の対米観は安倍以上に甘い。ワシントンにとって高市の立ち位置は今回の出馬会見により彼らの敷いたレッドラインをはるかに超えてしまった。
次は高市が反米、ジャパンアズNO.1の再現の意思を直接、間接に明言したことだ。
いわく「国の究極の使命は、国民の生命と財産、領土・領海・領空・資源、そして国家の主権と名誉を守り抜くことだ」、「総合的な国力の強化が必要だ。それは外交力、防衛力、経済力、技術力、情報力であり、すべてに共通する人材力だ。何よりも経済成長が必要だ。経済成長をどこまでも追い求め、日本をもう一度世界のてっぺんに押し上げたい」。
英霊尊崇の高市の言葉だけに「国家の主権と名誉を守り抜く」は戦後約80年、とりわけこの「失われた30年」に米国によって蹂躙、簒奪された日本の主権と名誉を取り戻すとの主張とも読める。「経済成長を徹底追求し、日本をもう一度世界のてっぺんに押し上げる」との意思は対米自立のため必須なもので、21世紀版の「富国強兵」構想と言える。もう一度世界に「ジャパンアズNO.1」を見せつけるとの強烈な意思は「八紘一宇=日本が全世界を一つの家にする」との覇権主義的野望と受け取られても仕方あるまい。ニューディーラーからジャパンロビー、CIA、そしてネオコン、ジャパンハンドラーに至るまで敗戦国日本の管理に関与してきた米関係者にとって、安倍にせよ、清和会にせよ、2012年の自民総裁選で安倍を支持するため清和会という派閥を飛び出した高市にせよ、狂信的な天皇崇拝者=靖国尊崇者は決して受け入れられるものではない。
再度上記の米シンクタンク日本部長(当時)の発言を引用する。
「日本の総理が靖国参拝することは、事後にどのような説明があったとしても「第二次世界大戦前の日本の行為を正当化する歴史観の肯定」であり、サンフランシスコ講和条約以降の国際秩序(当然、日米安全保障体制もその一部に含まれる)の否定につながる。これは中国や韓国の反応を抜きにして、米国として許容できないものなのである。
さらに日本の総理が靖国神社に参拝することで、中国や韓国に「日本の軍国主義化」について大騒ぎをする絶好の口実を与えることになり、日本にはこれからアジア太平洋地域で安定した安全保障環境を作り出すために一層、安全保障分野での役割を拡大してもらいたいと考える米国にとっては非常に具合が悪い。つまり、日米同盟をこれから深化させていきたいという米国の意図が本物であればなおさら、日本の総理大臣による靖国神社参拝は敵に塩を送るに等しく、「百害あって一利なし」の行為なのだ。」
この発言はワシントンの意思を正確に伝えている。
改憲や自衛隊についての高市発言は、これまで安倍が主張した枠を出ておらず、米側は高をくくっているはずだ。憲法9条に第3項を追加して自衛隊を明記する加憲案を含め安倍政権が提起した憲法改正案は憲法審査会、国民投票で採決できない仕掛けができている。「「私の手で改憲成し遂げる」は安倍首相最大の虚言--どう我々を欺いているのか 」を参照願いたい。
艦砲射撃の準備を整えた米艦に突撃する単独の特攻機。撃墜必至の特攻機が高市の姿にダブって見える。
対照的に、父親譲りの「聖域なき規制改革」を唱えて米権力中枢におもねる小泉進次郎と取り巻き。
対米自立が極右集団によってしか政治的な力にならない今日の日本。市民、労働者を中核とするリベラル派の抵抗運動の衰退が今回の自民党総裁選に如実に反映されている。
注:直近記事「ポスト岸田、米国の望む日本の保守政治とは 床屋談義報道を超えて 」及び「米政権の豹変と安倍国葬 「血を流せる国」にすると冷遇一転し絶賛 」などを参照ねがいたい。