ウクライナ軍の対ロシア軍徹底抗戦の場が市民の避難場所に-。ウクライナ南東部マリウポリのアゾフスタリ製鉄所の地下施設に避難してしている子供を含む1000人以上とも言われる非戦闘員は紛れもなく「人間の盾」である=写真=。同製鉄所がウクライナ東部占領を進めるロシア軍の最大の標的となる中、市民が製鉄所の地下施設にかくまわれた。マウリポリはロシアが掃討対象としてきたネオナチ部隊・アゾフ大隊の拠点でロシア軍の集中攻撃が予想されてきた。4月末に20人ほどが解放されたとされるが、大半の市民はテロリストの常套手段である人質の命で敵の攻撃を抑止する「盾」にされている。避難とは口実にすぎず、ロシアのマウリポリ完全占領を阻止したいウクライナ政府は市民の軟禁を事実上黙認していた。プーチン大統領がロシア軍に製鉄所への攻撃の中止を命じ、国連が仲介に動いたため一部解放へと動き始めたが、救出は難航。5月17日のウクライナ兵投降の前に非戦闘員(民間人)は全員救出された模様。
なぜ西側メディアは市民を避難民として扱い、「人間の盾」と非難しなかったのか。答えは明々白々。ウクライナ軍傘下親衛部隊アゾフ大隊は一般市民を「人間の盾」として使うような非人道的な組織ではないとのイメージを人々に抱かせるためだ。ロシアを「悪の帝国」として徹底糾弾している以上「被害者」のウクライナにマイナスイメージを与えられなくなってしまっている。
マリウポリから6000人もの市民を脱出させるルートは3月5日から開いたとされる。だが、アゾフ大隊の拠点である同製鉄所が前日の3月4日にミサイル攻撃されると、市民の脱出は中止になったという。ソ連時代に作られた核シェルターと言われる製鉄所の地下施設にいる1000人とも2000人とも言われる市民は3月中には籠城を始めており、ここに多数の市民が集められた経緯は明らかにされていない。一般住民が自発的に避難したとは到底思えず、強制的に籠城させられたとみる他ない。https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202203060000/
米・北大西洋条約機構(NATO)やウクライナ政府に配慮したのか、ネット版「国際テロリズム要覧」で「アゾフはネオナチ」としていた日本の諜報機関・公安調査庁が4月8日に理由を明らかにせず突然記述を削除した。日本の担当政府機関が「ネオナチ組織がアゾフ大隊を結成した」との記述を削除したのはそれまでの見解の撤回と解されて当然である。ところが、同庁は「(要覧は)内外の各種報道、研究機関等が公表する報告書等から収集した公開情報を取りまとめたもの」で「(公調の)独自の評価を加えたものではない」と意味不明な言い訳をした。独自見解でないから公開を取りやめるのならば、信ぴょう性の高い公開情報を取りまとめて「アゾフはネオナチ」とこれまで要覧に掲載してきたのは何故か。支離滅裂である。「全面削除は昨今の政治状況を配慮してのこと」と公言しているのに等しい。
【地下避難施設に籠る子供たちの画像:アゾフ大隊提供】
これ以降、日本ではNHKはじめ報道機関はアゾフスタリ製鉄所にこもるアゾフ大隊の司令官を登場させ、「ロシアが一般市民の避難する地下トンネルまで達する地下貫通弾で攻撃している」「我々は最後まで戦い抜く」とロシアの非道ぶりをアピールし続けている。同時にすべての既成メディアは示し合わせたかのように「アゾフ大隊は結成当初はネオナチとの関係が取り沙汰されたが現在は通常の部隊となっている」との趣旨の報道を始めた。
国連のグテレス事務総長は4月26日、モスクワでロシアのプーチン大統領と会談。国連によると、国連と赤十字国際委員会(ICRC)はアゾフスタリ製鉄所に避難している民間人の退避に関与することで原則的に合意したという。具体的な計画は、国連人道問題調整事務所(OCHA)とロシア国防省が協議するとしているが、退避が実現するかは不透明とされていた。
プーチン大統領が製鉄所への攻撃を止めるよう命じたことは報道されたが、西側報道では攻撃停止命令が避難民(人質)の生命を守るためであることは割愛されている。国連の仲介によっても全員の退避、解放が実現するとは思えない。アゾフ大隊が「人間の盾」を死守するのは火を見るよりも明らか。市民が全員退避すれば、ロシア軍が一斉攻撃に踏み切るのは確実だからだ。
28日にウクライナの首都キーウへ移動したグテレス国連事務総長は、ゼレンスキー大統領、クレバ外相と会談した。これを受ける形で4月30日に20人が救出され、その後も解放者数は増えているが、数百人程度にとどまっている模様。予想通り、ウクライナ政府は5月2日、「全員救出を図ろうとする中、ロシア軍が攻撃を始め、避難は中止された」と発表。ロシア側が本当に攻撃を再開したか否かの裏付けなしに、米CNNをはじめ西側はロシア糾弾を続けた。
会談後、ミサイル2発がキーウに撃ち込まれた。ロシア国防省が「キーウの宇宙ロケット関連施設を高精度のミサイルで破壊した」と公表すると、ウクライナ当局は1発が25階建ての住宅の低層階に直撃したと発表。ゼレンスキー大統領は「会談直後にミサイルが飛び込んできた。国際機関に対するロシアの本当の姿勢を物語っている」と非難。不可解な応酬がエスカレートした。
4月24日掲載記事「現地は『戦争の前にウクライナ軍がロシアに一時侵攻』と報告 これを黙殺する報道ファッショ」でその報告を一部引用した、2022年1月からウクライナ東部を中心に活動してきた日本の危機管理専門家の関与する現地調査チームは以下のように結論している。彼らは決してロシアのダミー組織ではない。
「ウクライナは世界で唯一、ナチス思想を基にした軍隊を現在も正規軍としている」「ウクライナ戦争は米国の唱えるような『民主主義VS全体主義の戦い』ではない。ウクライナでは政府や軍を牛耳る極右集団ナチス残党と米CIAとが危険な関係にある」「今回のウクライナ危機は、アメリカの『ロシア崩壊計画』の一部として入念に計画されていた。それはNATOによる公開写真や戦場の遺留品から見えてきた」
たとえロシア・プーチン体制が対外的には大ロシア主義を掲げながら国内では自由と人権を蹂躙する専制主義のそれであったとしても、その問題が米NATOを後ろ盾とするウクライナ政府が行っている著しい人権侵害を免責することにはならない。これは誰もが認めざるを得ない厳然たる事実である。