現代日本の軍事再編は、外部の脅威によって生じたものではない。 それは、日本政府が繰り返し用いる 「かつてない厳しい安全保障環境」 という 強迫的な危機言辞によって国民の判断力が奪われ、 国家への従属回帰が促されることで進んでいる。
この危機言辞は、戦前の国体イデオロギーが用いた 「非常時国家」 の語法と驚くほど似ている。 そして、この語法が効果を持つ理由は、 日本社会が 「危機」を提示されると国家への従属に回帰する構造を内在的に持っている という歴史的事実にある。
ここ数十年、日本海・東シナ海を中心に日米豪+NATOの共同演習が頻度・規模ともに中露北を圧倒し、 東アジアの軍事緊張を自ら増幅している にもかかわらず、 政府はこの構造を国民に説明しない。
危機言辞は、軍事緊張の“原因”を隠し、“結果”だけを提示するために使われている。
現代の軍事再編は、帝国日本の滅びと戦後日本の崩壊を貫く一本の線の最終段階であり、 対米従属の完成態として理解されなければならない。
■非常時国家の語法の復活
戦前の国家は、「非常時」「国難」「一億一心」「危機」 といった語法を用いて国民を心理的に追い込み、国家への忠誠を強制した。
現代の日本政府が用いる「かつてない厳しい安全保障環境」「中国の脅威」「台湾有事は日本有事」「北朝鮮核ミサイル」 という語法は、戦前の非常時国家の語法と構造的に同一である。
危機を提示し、国民を心理的に追い込み、 国家への従属回帰を促すこの語法は、 日本社会の精神構造に深く作用する。
① 市民革命の不在
国家に抵抗する権利(抵抗権・革命権)が社会的伝統として根付かなかった。
② 国体の精神構造の継続
忠誠・同調・家制度・上意下達という精神構造は、戦後も企業ファシズムとして温存された。
③ 公共圏の未成熟
討議文化が育たず、国家の語る「危機」を批判的に検証する社会的基盤が弱い。
④ カウンターパワーの絶対的衰退
中曽根政権の「戦後政治の総決算」、 米国ネオコンの対日戦略、
企業ファシズムの強化によって、 労働運動・反戦運動・公共圏が根こそぎ弱体化した。
これらが重なり、 日本社会は「危機提示」に対して 自律的抵抗ではなく従属回帰 を選択する構造を持つようになった。
■平和憲法の理念的崩壊
GHQニューディーラーが残した平和憲法は、 反軍国主義・反ファシズム・市民的自由・抵抗権萌芽を含む制度だった。
しかし、国体の精神構造、企業ファシズム、カウンターパワーの衰退 。これによって、憲法を支える社会的基盤は崩されていった。安倍二次政権以降、歴代自民党政権が集団的自衛権の行使容認、敵基地攻撃容認、防衛費の爆増、軍事産業育成、兵器輸出解禁へと踏み切ったことで決定的となった。
その結果、 平和憲法は 制度としては存在するが、理念としては崩壊している。現代の軍事再編は、この「精神の崩壊」を前提として進められている。
■NATO参入・ファイブアイズ周辺化――対米従属の完成態
現代日本の軍事再編は、日本のNATO参入、ファイブ・アイズ周辺国化、自衛隊の米英補完部隊化、中国封じ込めの前線基地化、「東の英国」という幻想の付与、日本の右翼政権への軛(くびき)、米英アングロサクソン同盟への組み込みによって進んでいる。
これは、 日米安保=瓶の蓋の国際版 であり、 対米従属の完成態である。
■結語
現代日本の軍事再編は、 日米豪+NATO vs 中露北 という軍事ブロックの対立の中で進んでいる。
しかし政府はこの構造を隠し、 「かつてない厳しい安全保障環境」という危機言辞を用いて 国民を従属回帰へと誘導している。
最も深刻な危機は、 外部の脅威ではなく、 危機提示に流される国民の精神構造そのもの である。
この精神構造こそが、 平和憲法を形骸化し、 軍事再編を容易にし、 対米従属を完成させているのだ。