安倍元首相が暗殺されて約半年後の2022年12月。安倍晋三に代わり自民党最大派閥清和会を束ねていた森喜朗元首相は都内の会合で「ロシアのプーチン大統領だけが批判され、多くのウクライナの人たちを苦しめているゼレンスキー大統領が全く何も叱られないのはどういうことか」と発言。ウクライナを巡る報道に関しても「日本のマスコミは欧米の報道にのみ依存して一方に偏る」と指摘し、G7議長国としてロシア徹底制裁、ウクライナ全面支援へと進む岸田首相に対し「米国一辺倒」とくぎを刺した。実は、この森発言は安倍の生前の発言を代弁したものだった。首相を辞任するや否や溜飲を下げるかのように米政府に事実上禁止されていた靖国神社に立て続けに参拝し、「大東亜を欧米の植民地支配から解放するため戦い没した英霊」を慰めた。致命的なのは、ロシアのウクライナ侵攻後にプーチンの軍事作戦に一定の理解を示し擁護したことだ。米権力中枢は”暴走”する安倍を許せなかったのではないか。
この6月半ばに都内で行われた集会で講演した孫崎享・元外務省国際情報局長はウクライナ戦争勃発直後から昨年半ばにかけ安倍元首相が次のように語っていたことを明らかにした。
「ゼレンスキーはウクライナがNATOに加盟しないことを約束し、(ミンスク合意を履行して)東部2州に高度な自治権を付与すべきだったが、それをやらなかった」「ロシアはウクライナの東部2州の問題に、かつてのユーゴスラビア紛争でボスニアヘルツェゴビナやコソボの独立を西側が認めたのと同じ論理を使っている。(今回の軍事侵攻は)ロシアに領土的な野心ということではなく、プーチンはロシアの防衛と安全保障のために行動している」「これを正当化するわけではないが、理解はすべきだ」
孫崎はこの安倍発言が行われた場所、詳細な日時を明らかにしなかった。だが、1つは民放テレビ番組での発言との報道がある。孫崎は「これを聞いた記者たちは誰一人として記事にしなかった」「日本で一番政治的力のある人物のウクライナ戦争についての見方を無視するとはどういうことか」と憤っていた。
プーチンと30回近く公式首脳会談を重ねた安倍は、プーチンの思考に精通していたはずだ。本ブログも一貫して主張しているように、ウクライナ戦争はウクライナを舞台にした米国の対ロシア戦争であり、ウクライナは代理戦争を行っているに過ぎない。この点では安倍の認識と一致する。自民党最大派閥を率いる元首相安倍の見解は2023年G7会合を主宰する岸田首相に重くのしかかっていたはずだ。
ウクライナ情勢は、安倍にとってかつての日中戦争泥沼化を導いた米国の蒋介石・国民党軍支援とつながっていた。安倍最側近の一人、西田昌司参院議員は昨年末にこう代弁した。
【写真】安倍元首相に向け2発目の発砲があったとされる瞬間。1発目の銃撃音から3秒経っているのに誰一人安倍に駆け寄り、安全を確保しようとしなかった。右後ろで両手を前に重ね、悠然と立っている男は一体何者か。警護役の私服警官であろうが、安倍の安否に対する気遣いはゼロだった。