英国は日英同盟復活へと動く 中国包囲の裏に日本管理も

2018年12月30日付英サンデー・テレグラフ電子版は、ギャビン・ウイリアムソン英国防相(当時)が同紙とのインタビューで、「欧州連合(EU)離脱後、英国は再びグローバルパワーを目指し軍事力を強化する」「二年以内に太平洋と大西洋に二つの海外基地を新設し、うち一つはブルネイかシンガポールに設ける」と語ったと報じた。2020年11月現在、西太平洋地域の新海外基地の場所選定は正式公表されていないが、英軍は2019年からブルネイを拠点に軍事演習を実施しており、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国中ブルネイを含む5カ国が中国と南シナ海でせめぎ合う領有権紛争に英国は米国とともに積極関与を始めた。こんな中、英国は合同軍事演習のための「物品役務相互提供協定(ACSA)」などを締結している日本政府と両国部隊が相互に相手国に入国する際の審査を不要にする「共同訓練円滑化協定」の締結交渉に入った。既に「準同盟」関係にある日英両国は、日英同盟が失効して100年目を迎える2023年までには中国封じを目的とする軍事同盟を復活させそうな勢いにある。だが一方、英国軍の東アジアへの展開には米英の戦後対日政策の核心である「日本を再び脅威としない」という日本管理と対日抑止の意図が透けて見える。

 

【写真】2018年10月、日本本土(北富士演習場)で実施された初の日英合同演習

 

 

 

 

【図】ブルネイの主張する南シナ海領有権。南シナ海全体を覆う赤い舌状の線(通称九段線)は中国の主張領域。この他、インドネシアは南シナ海南西海域のナトゥナ諸島近海にEEZを設定、中国が管轄権を主張する九段線と一部重複しており、係争海域となっている。2010年と2013年に近海で中国漁船がインドネシアに拿捕されたため、中国は武装艦を派遣して漁船を奪還した。

 

 

 

 

 

 

 

香港返還と在比米軍撤収で「力の空白」

中国が1990年代から太平洋の島嶼国への開発援助を名目に太平洋へと海洋進出し始めて以来、南太平洋のピトケアン諸島を海外領土とする英国は米国とともに中国の拡張主義を警戒しだした。さらに1992年の米軍のフィリピンからの完全撤収と1997年の英国の香港返還で南シナ海に生じた「軍事空白」に狙いをすましたように、中国は領海法を制定して南シナ海のほぼ全域の領有権を主張した。

このためベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、インドネシアの5カ国(台湾を含めると5カ国・1地域)は南シナ海の石油を含む海洋資源に富む西沙諸島(英語名:パラセル諸島)、南沙諸島(同:スプラトリー諸島)などの領有権を巡り中国と激しく争っている。特に、ベトナムは西沙諸島(英語名:パラセル諸島)の領有を巡り二度も中国と激しく軍事衝突してきた

■米英艦船、南シナ海でFON

英国の南シナ海問題への関与を後押ししたのは、2014年に始まり2018年には完了した南シナ海・南沙諸島での中国の7つの人工島建設とその軍事拠点化であった。その只中の2016年にフィリピンが中国の領有権主張に異議申し立てして国際仲裁裁判所に提訴した結果、中国の主張は全面否定された。しかし、中国は強制力のない仲裁裁判所の裁定を「紙屑」とけなして無視した。

米国は2015年10月以降、中国が領海と主張する人工島の12カイリ以内に米軍艦船を航行させて「海洋使用の自由」を訴える航行の自由作戦(FON)を実施し、中国との軍事緊張を高めている。こんな中、中国外務省は2018年9月、英海軍の揚陸艦「アルビオン」が同年8月末に同海域に入り、西沙諸島周辺でFONを実施したと発表、英国政府に抗議した。これ以降も英国艦船はベトナムのダナン、カムラン両港に停泊しながら単独、あるいは米艦船と共同して航行の自由作戦の実施を続けている。南太平洋に海外領土を持つフランスもこれに同調しつつある。

【写真】南シナ海・南沙諸島で中国が建設した人工島の1つ

 

再びグローバルパワーを目指す

このような南シナ海、東シナ海・尖閣列島を含む西太平洋域での中国とASEAN、そして日本との領土問題が日英両国を軍事連携へと向かわせる大義名分を与えた。2012年に戦略的パートナーシップの構築に関する共同声明を発表して日英防衛協力覚書が署名されたのを皮切りに、2013年に防衛装備品協定、2014年には情報保護協定、そして2017年に物品役務相互提供協定(ACSA)が締結された。現在は日米地位協定に準ずる共同演習実施円滑化協定の締結交渉が行われている。オーストラリアは日本とは11月17日の日豪首脳会談で円滑化協定締結で大枠合意しており、英国がこれを追う形となっている。

西太平洋域ではクアッドと呼ばれる米日豪印の4カ国による中国包囲網が形成されつつある。米国は南シナ海問題を抱えるASEAN諸国の包囲網への参加を呼び掛けているが、先行掲載記事「バイデンはポンペオ路線継承へ 日・ASEAN関係重く」で指摘したように、東南アジア諸国は戸惑い、動けないでいる。

英国の東アジア、太平洋への軍事進出、そして日本との本格的な軍事連携開始は、米国主導のクアッドとともに中国の拡張を抑止することを目的にしているのは明々白々。2018年末の「欧州連合(EU)離脱後、英国は再びグローバルパワーを目指し軍事力を強化する」との英国防相発言はこのようにして具現化されている。

さらには、英国軍の東アジアへの展開から見え隠れする米英の戦後対日政策の核心、「日本を再び世界の脅威とならないよう操作していく」との日本抑止の意思を知るには近年の日本のNATOとの関わりを注意深く観察する必要がある。この点については続稿で詳しく論じる。