対立派閥領袖の排除と怪死横目に、米国の対日指令丸呑み 安倍暗殺事件再考3

安倍晋三もまた父晋太郎が志半ばで死去した際、父が会長を務めた自民党清和会が1955年の自民党結成以来傍流派閥であることに引け目を感じていたはずだ。初当選した1993年前後は日本政界激動の時だった。保守本流の宏池会・田中派を源とする経世会支配が続く中、弱冠47歳の幹事長として自民党を牛耳った小沢一郎らが政治改革を掲げて経世会を飛び出し、新党を結成。細川護熙を首班とする非自民8会派連立政権、自民党の結党以来初の下野、55年体制を崩壊させた自民・社会・さきがけ連立政権の誕生が続く。

この混迷の只中、東西冷戦終結後の日本の安保・外交政策は激変していく1990年湾岸戦争で米国は突如「自衛隊を派遣せよ」「金だけでなく血も流せ」と日本に要求。これに身を震わせたであろう一人が「アメリカと対等な同盟国になるには日本人も血を流さなければならない」と語った安倍である。バブル経済崩壊後、膨大な不良債権処理に苦しむ日本経済は米国資本に浸食されて成長なき低迷が続く。保守本流系の領袖らが排除され、怪死者も出る中、小泉、安倍内閣の政権派閥清和会は米国の対日指令を丸呑みし続け、経世会支配を終わらせて自民党主流派の地位をいびつな形で不動のものとした。

【写真】1993年7月総選挙で初当選。衆議院に登院、議員バッチをつけてもらう安倍。この選挙の結果、小沢一郎らの主導で初の非自民連立政権・細川内閣が発足した。

 

 

 

 

 

 

 

■経世会排除の罠

東西冷戦終焉と並行しながら、1988年のリクルート事件、1992年の佐川急便事件をはじめとする一連の政治スキャンダルが田中派を源とする経世会支配に次第に亀裂を入れていった。それは1972年に日中国交回復を果たした首相田中角栄とそれに続く田中系の親中派政治家たちを永田町の主舞台から放逐する企てであった。最も敵視されたのは田中角栄直系で対米自立を旗幟鮮明にする小沢一郎である。有名な2009年の軍事戦略的には米国の極東におけるプレゼンスは第7艦隊で十分だ」との発言はその政治姿勢を象徴した。ワシントンは政治資金規正法違反など軽微な形式犯容疑でも東京地検特捜部を動かし、刑事訴追を通じて小沢をしゃにむに排除しようとした。

これまた角栄直系の橋本龍太郎にも罠が仕掛けられた。自立外交を掲げる総理として1997年訪米し、ニューヨークで「大量の米国債を売却しようとする誘惑にかられたことは、幾度かある」と発言。すると米国で一時株価が急落、「発言は対米背信」と宣伝される。だが橋本は、米経済が与える世界経済への影響などを理由に挙げた上で「この誘惑に屈服することはない」と念を押していた。にもかかわらず、これが命取りとなる。発言への非難には、「経世会・橋本叩きありき」がうかがえた。同時に日本の言論界では清和会寄りの論者を中心に露骨な橋本派(経世会)潰しを狙った「古い体質の自民党政治を終わりに」とのキャンぺーンが起きる。明らかに「経世会支配の終焉、清話会の台頭」を狙ったものだった。総理退陣後も不可解な闇献金事件に見舞われた橋本は2006年に奇病とされた腸管虚血で怪死した。

■ネオコンに選ばれた「タカ派の貴公子」

経世会潰しが進む一方で、安倍晋三は「タカ派の貴公子」としてメディアにもてはやされ、脚光を浴びた。ハイライトとなったのは2002年9月の小泉首相の北朝鮮訪問に内閣官房副長官として同行し、北に安易な妥協はしないとの姿勢をアピールしたことだ。日本に一時帰国した拉致被害者の北朝鮮への帰還を阻止して内外の対北強硬派に高く評価される。ネオコンで側近を固めたW・ブッシュ米大統領が一般教書演説で北朝鮮、イラン、イラクを「悪の枢軸」と名指しし、翌年の「大量破壊兵器を所有するならず者国家イラク」への攻撃の第一歩となったのが2002年1月。この流れの中で小泉訪朝が行われ、安倍のネオコン同調姿勢を際立たせた。

2002年5月に安倍は「憲法上日本は核兵器を所有できる」「小型の戦術核なら保有も使用も問題ない」と語り、物議を醸す。祖父岸信介の首相時代の国会答弁を換骨奪胎したものだったが、かえって自民党タカ派議員や御用学者らに評価された。「タカ派の貴公子」としての評価を固めつつあった安倍に米国のネオコン・ジャパンハンドラーの手が伸びていった。

2001年に著作「集団的自衛権」を刊行した安倍の大学時代の恩師佐瀬昌盛は2000年に集団的自衛権行使容認を柱とする対日指令書・第一次アーミテージ報告書を日本政府に提出したジャパンハンドラーたちと自民党の若手タカ派議員を教育していくことで合意したと推察される。リチャード・アーミテージ元国防副長官やジョセフ・ナイ元国防次官補らが対日勧告書を刊行し始めた、ジャパンハンドラーの巣窟である米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)は日本の外交官らが一時出向で在籍してきた。その一人岡崎久彦が安倍と佐瀬を仲介し、「集団的自衛権の行使を容認すれば自衛隊を海外派遣し、米軍と一緒に武力行使が可能になる」「そうなればイラクは米英日で共同統治できる」などと説明し安倍の憲法九条空洞化と軍事大国への志向を刺激したようだ。

■「幸運」か「偽計」か

長く安倍番記者を務めたある大手メディア政治部記者は、自民党主流に躍り出た清和会や安倍には「幸運が重なった」と回想する。果たしてそうだろうか。

まず経世会最後の首相小渕恵三が2000年に脳梗塞で倒れ、密室談合により22年ぶりの清和会政権となる森喜朗内閣が発足、2001年の小泉政権誕生へと続く。2001年の自民党総裁選で小泉純一郎が圧倒的有利とされた橋本龍太郎を敗ったのは「自民党をぶっ壊す」とのキャッチフレーズで「小泉劇場」が演出されたためだ。バブル崩壊後の「失われた10年」の閉塞感に覆われた日本社会への小泉のアピールは奏功。「田中金権政治以来の旧態依然とした日本政治を刷新するもの」との期待が沸き起こり、小泉は圧勝する。小泉内閣の唱えた構造改革の実態は日本の国富を米資本に簒奪させ、新たな「失われた10年」を招来させるものだった。「小泉劇場」は偽計の舞台であった。舞台裏の米ネオコンはほくそ笑みながら、「栄えある日本を取り戻す」と叫ぶ、軍事大国ノスタルジーの第一次安倍政権を2006年に登場させたのである。

第一次安倍政権が1年で崩壊し、福田康夫、麻生太郎の自民党政権も1年で崩壊、そして3年間の民主党政権が続き、2012年12月に第二次安倍政権が復活する。この間の動きのリビューは割愛するが、本ブログ掲載論考の「安倍国葬」指示した麻生太郎の権力の源 保守本流の祖吉田茂の血統と人脈 | Press Activity 1995~ Yasuo Kaji(加治康男) (yasuoy.comなどが参考になる。

 

■”奇跡”の安倍復活

安倍再登場は日米の利害関係者が周到に用意し大掛かりに支援して実現したものだ。しかし、2012年9月26日に行われた自民党総裁選で安倍に大きく立ちふさがったのが安倍が属する最大派閥清和会の会長町村信孝の出馬だった。大方の予想では、町村は5人の候補者中、石破茂、石原伸晃に次ぐ位置にあった。安倍は絶体絶命のピンチにあった。ところが、町村は9月18日に体調不良を訴えて入院26日の投開票では34票を獲得するに留まった。清和会の票は大挙して安倍に向かった。町村の病は11月22日には脳梗塞と発表され、事実上政治生命を絶たれて3年後死亡した。

こうしてみると清和会支配に向かう過程でスキャンダルに見舞われ東京地検特捜部の捜査対象になったのはすべて親中派の多い田中派に由来する経世会の領袖である。しかも、橋本と小渕は怪死している。小沢一郎は1991年以来心臓を患っている。加えて安倍の復活に立ちふさがった町村も総裁選直前に脳梗塞を発症した。結局、1993年の安倍晋三初当選以来、清和会あるいは安倍自身に不利益をもたらす領袖はみな災厄に見舞われている。排除されるか、怪死である。単なる偶然とみなすのはあまりに不自然だ。歴代最長政権を可能にした「安倍1強」は内閣人事局設置に伴う官邸の霞が関・官僚支配によるとの説明では収まらない。可視化されないワシントンの絶大な力が支え続けたからとみるほかない。

■加藤紘一排除と戦後78年目の現実

末尾ながら、野党とともに内閣不信任決議により森・清和会内閣打倒へと動いた加藤紘一による2000年11月加藤の乱について若干触れる。加藤率いる保守本流「宏池会」は、国際貢献を名目とする自衛隊の海外派遣、集団的自衛権行使や憲法改正に真っ向から異を唱え、中国、韓国との融和による東アジア和平を強く希求した。米ジャパンハンドラーと結ぶ岡崎久彦は加藤を「国を危うくする人物」と酷評した。加藤は安倍晋三とは対極をなす。清和会が興隆する中、宏池会は分断されて、加藤も体調不良に悩み、秘書が脱税に問われ、山形の実家を放火されている。戦後リベラル保守の象徴といえ、2016年に死去した加藤も排除された領袖の一人である。

安易に陰謀論を唱える必要はない。ウィキリークスやスノーデンらの暴露を待つまでもなく、CIAはガン、脳卒中、心筋梗塞など病死と見せかけて、世界中で政敵を抹殺してきた。日本の警察はCIAの手足である。日本社会は米諜報機関に呑み込まれている。

7月8日は安倍1周忌である。安倍もまた政治的にパージされ、解体寸前の清和会は使い捨てにされたとの疑念は膨らむばかりである。戦後78年目の現実に慄然たる思いに駆られる人は少なくなかろう。

 

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