9月28日差替:「中露北に囲まれ最悪」と米におもねた自民総裁候補 1941年攘夷決行の果て

度外れた靖国尊崇のためワシントンに嫌われながらも自民党総裁選で”善戦した”高市早苗候補が米権力中枢にしきりにおもねた。勝利した石破茂新総裁はアジア版NATOの結成、「核共有・持ち込み」まで口にした。「日本は中国、ロシア、北朝鮮という3つの核保有国に囲まれた最悪の安全保障環境にある」「ロ軍機や中国軍機の領空侵犯は日本の対処が甘すぎてなめられているからだ」などとして日本の国防力強化の必要性は論をまたない」と息巻いた。サイバー攻撃から領空、領海侵犯まで大陸からの脅威を徹底的に封じるためには米軍事産業と全面的に連携、換言すれば米国製兵器を大量購入すると示唆したことになる。それはさておき、1955年発足の自由民主党は社会党政権樹立阻止のために米中央情報局(CIA)が反共の保守2党を強要して合同結党させたもの。このためなぜ現在日本が最悪の安全保障環境にあるのか、その根本原因に言及する総裁選立候補者は当然ながらいなかった。

■「米が中露北を挑発」―視点の逆転も必要

いうまでもなく根本原因は日米安保条約の存在である。日本政府もメディアも中露北の動きが日本に対する敵対行動である、挑発だと長年プロパガンダしてきた。それは欺瞞である。ワシントンが「日本全土に好きな時に、好きなところに、好きなだけ」(ジョン・ダレス国務長官)米軍基地を設けた理由は、米軍に日本人を守らせるためではない。日本列島をユーラシア大陸(朝鮮、中国、ロシア)に向けた侵攻拠点にするためなのだ。間違ってはならない。中露北は日本ではなく在日米軍に敵対しているのである。

ライシャワー元駐日米大使の発言やラロック証言によると、非核三原則のうち「持ち込ませず」は有名無実で、潜水艦を含む米核搭載艦は横須賀や佐世保に寄港している。核兵器の湾岸貯蔵、陸上搬送も日常化していると疑われる。日本に駐留する米軍の使用可能な核の標的になっているのは中露北である。ロシアが北方領土を二島(歯舞、色丹)といえども日本に返還できないのは、米軍基地設置を懸念してのこと。米側も二島返還と日露平和条約締結を半永久的に阻止しようとしている。中露北の軍事的動きは在日米軍を核とする米韓日の挑発によると言っても過言ではない。少なくともそうした視点は要る。

■日米安保の本質

日米開戦直後、ロックフェラー財閥の傘下に置かれ、米国の対外政策に対して決定的な影響力を持つ外交問題評議会(CFR)は「日本占領に際しては朝鮮蔑視、中国、ロシア、アジア諸国に対する優越感、米英をはじめ西洋諸国と対等に扱われたいとの強い願望を利用すべき」と提言している。この提言は戦後一貫して米国の対日政策に採用された。対日講和条約締結の前の1951年1月にCFRを主宰していたジョン・D・ロックフェラー三世はアイゼンハワー政権で国務長官となるジョン・フォスター・ダレス特使とともに講和条約締結の根回しのため来日し、2人とも同様の発言をしている。黄色人種という劣等感を逆手にとるのが米英支配層の日本ハンドルの基本である。それは今日まで一貫している。

日米安保条約の「生みの親」とされるジョン・ダレス=写真右、左はアイゼンハウアー大統領=は講和条約締結後、次のように、日米安保の何たるかを明言している。

「他のアジア人の国々に対して日本人がしばしば持っていた優越感と、「エリート・アングロサクソン・クラブ」のアメリカやイギリスなどの共産主義国に対抗している西側陣営に入るという憧れを満たすことを利用して、西側陣営に対する忠誠心を繋ぎ止めさせるべきだ。日本を再軍備させ、自分たち西側陣営に組み入れるということと、一方、日本人を信頼し切れないというジレンマを日米安全保障同盟、それは永続的に軍事的に日本をアメリカに従属させるというものを構築することで解決した。」

安保条約の本質は「米国が日本を永続服従させるためのビンの蓋」なのに、自民党はこれに目を背け有権者に虚構の「安保政策」を語ってきた。「日米同盟の強化」とは「米国の日本封じの強化」に他ならない。

 

■ASEANに学べー旗幟鮮明に中立主張

「日米安保破棄すべし」と主張すれば日米の戦争屋及びその取り巻き応援団は「リアルポリテックス」を知らない、青臭いたわごとと冷笑するだろう。もう一度言う。日本人が安全、平和に暮らすには日米安保条約を破棄する以外ない。かつて冷戦構造に巻き込まれ1954年に発足した東南アジア条約機構(SEATO)は1977年に解散。1967年に発足した東南アジア諸国連合(ASEAN)は、1990年代から本格的に欧州連合を見習いながら10か国で構成する経済共同体を形成した。

ワシントンに向かっては「中国か、米国かという二者択一を迫るな」(リー・シェンロンセン・シンガポール首相)と旗幟鮮明に中立を主張している。これに習い、日本の安全保障環境を抜本的に見直す必要がある。1990年代にはマレーシアのマハティール首相をはじめ米欧抜きの日本を核とした東アジア経済協議体などの提唱もあったが、ことごとくワシントンに潰された。東南アジア諸国は「侵略を心から詫びる」とした1995年村山富市首相談話で日本を大きく見直した。だが日本人は右翼・保守派を中心にいまだにアジアの人々を土人と口にして憚らない。彼らが時に口にする八紘一宇・大東亜共栄など植民地支配のための詭弁ととっくに見透かされていた。

■戦前から従属しようとした対米協調派

ウクライナ戦争を巡る米英両政権の背後から見えてくるのはユダヤ資本とユダヤロビーである。19世紀以来、彼らの最大の敵はロシアであり、その最終目的はユーラシア大陸制覇である。幕末から明治維新にかけての戊辰戦争に続く朝鮮、台湾進出、日清戦争、日露戦争。日本の薩長藩閥政府はロンドン・シティのユダヤ金融資本から莫大な外債発行による融資を得てこれらの戦いを遂行した。大英帝国にとって日本は東アジアにおけるロシアを封じ込めるための要塞であったからだ。日英同盟(1902ー1923)はその象徴である。とりわけ日露戦争(1904-1905)は英国のための対露代理戦争であり、基本構図はウクライナ戦争と同じである。

【左図】イギリスとアメリカが子供の日本にロシアに立ち向かうようそそのかしている。日英同盟を巡るよく知られる風刺画。

 

20世紀に入ると関東大震災に際し米ウオール街が外債を引き受け復興資金を賄った。このように後発帝国主義国・日本は戦前からロスチャイルドモルガン、ロックフェラーなどユダヤ系をはじめとする米英金融資本に事実上従属してきた。1923年の日英同盟の解消は米国が日本を徹底して警戒し始めたという赤信号であり、満州を超えての華北への軍事侵攻は米英の敷いたレッドラインを完全に超えた。昭和天皇を囲む宮中人脈、財閥は動揺しながらも基本的には米英と軍事的にも経済権益においても協調し開戦を阻止する道を模索した。それは戦後の吉田茂長期政権、自民党結成とつながる対米協調派の揺籃となった。

 

■真珠湾奇襲は100年後の攘夷決行

しかし軍部ファシズムの高まりは宮中を中心とする対英米協調派を君側の奸として退け、内大臣牧野伸顕らは2・26事件(1936)で殺害の対象となった。1937年 国体の本義、1941年臣民の道にみられるように米英の個人主義思想の否定、国体の尊厳、国家奉仕を第一とする忠君愛国精神といういわば天皇カルトに国民を縛り付けた。日本軍の対英米戦への突入はまさに狂気のなせる業であった。対英米戦争・第二次大戦突入は、攘夷から開国に転じ倒幕して明治新政府を樹立した薩摩、長州の草莽らが唱えた「攘夷のための開国」「夷の術をもって夷を征す」が「鬼畜米英」とスローガンを変えて現実のものとなったといえる。そもそも明治期の「和魂洋才」は西欧型市民社会形成を拒絶し、祭政一致の復古型王政形成の志向を示唆する通俗スローガンだった。

明治初年、「あれだけ攘夷を唱えていたのになぜ開国なのか」と問われた西郷隆盛は攘夷は口実。幕府が開国したので倒幕のため攘夷を叫んだのよ。列強を凌ぎ、本物の攘夷を決行する」と答えたという。浦賀沖にペリー艦隊が来航中、江戸にいた佐久間象山は吉田松陰ら門弟に「(国力がつけば)夷の術をもって夷を征す」と「攘夷のための列強に伍す富国強兵」を語ったとされる。

したがって、1941年12月8日の日本海軍による米真珠湾奇襲=写真 下左=は「約100年経ての大攘夷の決行」と言え、1945年8月15日の「大東亞戰爭終結ノ詔勅」は攘夷決行の果ての大挫折となった。同年9月2日の対米降伏調印=写真 下右=によって永続敗戦の道が敷かれてしまった。倒幕後の日本帝国をロシアに対する防壁として上手に使うことが薩摩、長州を支援した英国の大きな課題であった。よって1951年日米安保条約締結は米英アングロサクソンにとってペリー来航以来実に100年かけての少なくとも軍事面での「日本植民地化」達成と言える。この植民地化は今や出口を失ってしまっている。

No A-Bombing, My Life, Japan's post-World War II

 

米英の戦後の日本管理の要点は「日本を再び脅威としない」にとどまらず、「完璧に管理しつつ再びユーラシアに向けた強固な要塞とする」にある。

再度記す。蛇に睨まれ、凍てついたカエル。自民党総裁選候補者だけでなく立憲民主党の代表選の立候補者の面々をみてそう感じた。

 

参考論考:

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